研究課題/領域番号 |
20K05064
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
井上 泰志 千葉工業大学, 工学部, 教授 (10252264)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 斜入射堆積法 / 反応性スパッタリング / 反応性蒸着 / 窒化物薄膜 / 離散的柱状構造 / 優先配向性 |
研究実績の概要 |
2020年度は,以下の実績を得た. (1) 反応性スパッタリング法に斜入射堆積法を適用したTiN薄膜堆積において,堆積時のスパッタガス圧が堆積膜の優先配向性および微細構造に与える影響を調査した.スパッタガス圧0.5~5Paにおいて堆積実験を行ったところ,従来報告されてきた(111)配向とは異なり,すべての試料において(100)面が優先配向面となった.結晶性は0.5Paにおいて非常に低く,3Paにおいて最もよい結晶性が得られた.結晶性と相関するように,柱状構造の離散化が明確となった.本実験により,反応性プラズマプロセスにおいて離散的柱状構造を形成するために,斜入射堆積法の幾何学的因子以外に,結晶性が重要な因子となることが示唆された. (2) 反応性蒸着法および反応性スパッタリング法に斜入射堆積法を適用し,離散的柱状構造を有するAlドープInN薄膜を作製し,結晶性および微細構造に対するAlドープ量の影響を調査した.反応性蒸着膜では,Alをドープした試料はすべてアモルファスであったが,離散的柱状構造は形成された.ただし,柱状構造の太さが大きく肥大化した.一方,反応性スパッタ膜では,結晶性は維持されたが,柱状構造の離散性は部分的となった.反応性蒸着法では成膜圧力が低いため,結晶性の有無に関わらず幾何学的因子により離散的柱状構造が得られ,反応性スパッタリング法では幾何学的因子が弱いため,離散性が低下したと考えられる. (3) 反応性蒸着法によるInNの斜入射堆積において,ランプヒーターにより基板を加熱したところ,非加熱時は(101)配向であったのに対し,加熱時は(001)配向が優勢となった.作製膜の微細構造は,加熱時の膜において柱状構造間の空隙が広がり,離散性がより明確となった.優先配向面の変化は,堆積中のInN表面に吸着するN2分子密度が加熱により低下したためと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は,コロナ禍により年度前半は大学入構自粛措置,年度後半は大学入構時間短縮措置が施行されたため,実験時間・試料作製回数が大幅に削減され,研究が計画通りには進まなかった.具体的には以下の通りである. (1) 反応性スパッタリング法による離散的柱状構造化TiN薄膜の形成に関する研究は,成膜圧力の影響を調査することはできたが,成膜ガス組成の影響については遂行できなかった. (2) 斜入射堆積法によるAlドープInN薄膜の作製に関する研究は,おおよそ当初の目標を達成したが,Al組成の振り幅が十分とは言えない結果となった. (3) 斜入射堆積反応性蒸着法によるInN薄膜堆積において基板温度を制御する実験においても,温度の振り幅が不十分となった. (4) 「研究実績の概要」で示した上記(1)~(3)のTiN薄膜,InN薄膜以外に,SnO2薄膜を研究対象とする予定であったが,こちらは実験時間が確保できなかったため,次年度に繰り下げることとした.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に引き続き,今後も当分の間,コロナ禍による大学入構時間短縮措置が継続される可能性があるため,研究計画を以下とおりとする.全体的には当初の研究計画に大きな変更はない. (1) 2020年度に不十分であった部分を完成させる.具体的には,InAlN薄膜のAlドープ組成幅を広くする.また,斜入射堆積反応性蒸着法における基板温度の制御幅を広くする.TiN薄膜の斜入射スパッタリング実験については,成膜ガス組成の影響についての調査を2022年度に行うこととする. (2) 当初の研究計画において対象材料としていた酸化物薄膜(SnO2,WO3)については,計画通り,2021年度から研究を遂行する.SnO2についてはガスセンシング特性を,WO3についてはエレクトロクロミック特性を評価し,斜入射堆積法導入の効果を調査する. (3) 炭化物薄膜(SiC,TiC)については,これまで当研究室での研究実績がなく,多くの予備実験が必要になると予想されるため,2022年度に実施することとする.
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次年度使用額が生じた理由 |
計画通りに経費を執行したが,わずかな差額(6円)が生じた.金額的に大きくないため,2021年度分と合わせて使用する.使用計画は当初の計画通りであり,変更はない.
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