2022年度は以下の実績を得た. (1)前年度に引き続き,金属Tiをターゲットとし,スパッタガスにAr-O2混合ガスを用いた反応性スパッタリング法に斜入射堆積法を適用し,TiO2薄膜の離散的柱状構造化を試みた.ランプヒーターを用いて成膜時の基板温度を制御したところ,240℃で作製した試料において,(100)面に非常に強く優先配向したアナターゼ型結晶構造のTiO2薄膜が得られた.SEM画像から,明瞭な柱状構造が観察され,部分的ではあるものの,柱状晶間の空隙が確認された.この成果から,反応性スパッタリング法に斜入射堆積法を適用することによる離散的柱状構造形成には,結晶性および優先配向性の向上がキーとなることが確かめられた.Tiの供給流束を高めて成膜速度を向上させることができれば,膜堆積中の原子の表面マイグレーションが抑制され,より明瞭な離散性が実現できると考えられる. (2)WO3焼結ターゲットを用いたスパッタリング法に斜入射堆積法を適用し,WO3薄膜の離散的柱状構造化を試みた.その結果,堆積膜はアモルファスWO3であり,柱状構造も認められなかった.そこで,ターゲットと基板の間に,スパッタ原子の入射流束角度分布を制限するスリットを設置したところ,堆積膜の微細組織が柱状となり,ごく部分的ではあるが柱状間の空隙も認められた.透過率スペクトルを測定した結果,垂直堆積膜では明瞭に観測された干渉に伴うスペクトル振動が,斜入射堆積膜では全く認められなかった.このことは,斜入射堆積膜が面内でサブミクロンオーダーの光学的不均一性を有することを示しており,斜入射堆積により膜密度の不均一性が導入できることがわかった.エレクトロクロミック特性評価の結果,斜入射堆積膜の色変化応答時間が,垂直堆積膜と比較して大きく短縮され,電圧印加に伴う膜内へのイオン移動が向上したことが示唆された.
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