研究課題/領域番号 |
20K05067
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
西谷 滋人 関西学院大学, 理工学部, 教授 (50192688)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / 有限温度 / 調和振動子近似 / 非調和振動効果 / 粒界エネルギー / 点欠陥 / 表面エネルギー / アルミニウム |
研究実績の概要 |
「格子欠陥自由ネルギーの精密計算法の開発」では,Alの各種格子欠陥の有限温度の自由エネルギーを第一原理計算で求めることを目的としていた.格子欠陥としては,粒界,点欠陥,表面を対象にして研究を計画した.当初の目標である粒界,特に<100>対称傾角粒界に対する計算は終了し,実験結果を再現することが判明した. エネルギー計算には,最も信頼性が高いとされる第一原理計算のみを用いている.これは経験的ポテンシャルに不可欠なフィッティングパラメータで調整することなく,曖昧さを排除して,精密なエネルギーが求められるからである.これによって,高度なフィティング操作を省くことによって,物理的な解釈が直感的であることが期待できる. 有限温度計算には,調和振動子近似となるEinsteinモデルと,非調和振動効果をモンテカルロシミュレーションの熱力学的積分(thermodynamical integration)から求めるFrenkel法を適用して,その効果を見積もった.基底状態では再現できなかった<100>対称傾角粒界のエネルギーの角度依存性は,Einsteinモデルによってほぼ再現することが明らかとなった.また,Frenkel法によって求められた非調和効果は少ないことが判明した.ただ,これは非調和効果を含めたポテンシャルをEinsteinモデルにおいて取り込んでいる影響と考えられる. これらの成果は国際的な専門誌へ投稿し,掲載されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた,経験的ポテンシャルEAMによるプロトタイプの作成は終了し,Frenkel法の実装を終えた.本研究予算で購入した新規のクラスターマシンはVASP計算を加速させるncoreオプションによって,実働で今までの3倍の性能を示し,モンテカルロシミュレーションを高速に稼働することが可能であった. その結果,<100>対称傾角粒界において粒界の整合性を保つために不可欠と考えられる五角形二重ピラミッド構造(pentagonal bi-pyramid)が特徴的な非調和ポテンシャルを示し,このゆるい結合によって有限温度での自由エネルギーの安定化を助長していることが判明した.この結果,粒界エネルギーは,傾角0°側と90°側のどちらもが同じ角度依存性を示し,転位論が予測するバーガーズベクトル依存性を示さないことが判明した. さらに,最終年度に予定していたスパコンへの移植は,他の予算でNEC 製のベクトルエンジンを搭載した A101-1 を稼働させ,code 移植を行なっ た.さらに,自作の tiny grid engine により開発・稼働させている.ここで開発したコードはそのまま,より多くのNEC製のベクトルエンジンで構成されるベクトル型のスパコンでの稼働が可能である.また,この実装を通して,パラレル型のスパコンへの移植も可能である.
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今後の研究の推進方策 |
新しい有限温度第一原理計算法をAlのいくつかの欠陥構造に適用する.対称は,粒界,点欠陥,表面を予定している.粒界としては,新たに<100>対称ねじり粒界を対象として計算を行う.予備計算の結果ではEinsteinモデルで十分な精度が出ることが予想できる. 一方,点欠陥はその計算が高速に行えることからいくつもの条件で詳しくEinsteinモデルやFrenkel法の計算条件を詰める予定である.モデルのサイズ依存性や有限温度の最安定体積の決定法など,色々不明な点があるので,最も汎用性の高い計算手順を確立することを目指す. また,表面計算ではEinstein法ではうまくいかないことが判明している.Frenkel法を適用して実験結果との整合性を確かめる予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
学会出張旅費を予定していたが,コロナの状況でほぼすべてキャンセルとなった.次年度への繰り越として請求した70千円も含め,次年度は成果を発表するために積極的に海外での国際会議に参加する予定である.
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