研究課題/領域番号 |
20K05070
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
寺嶋 健成 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (20551518)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | データ駆動物質探索 / 機械学習 / 磁気冷凍材料 |
研究実績の概要 |
データ駆動型の磁気冷凍に適する材料の物質探索を行うために、磁性体データおよび磁気冷凍材料に欠かせない磁気熱量効果指標として、磁場下でのエントロピー変化の大きさのデータ収集を行った。スクリーニングの第1段階として、収集したデータをもとに、物質の組成を入力として、磁気エントロピー変化の大きさに対する教師あり学習を行い、機械学習モデルを作成した。次に作成したモデルを用いて磁場下でのエントロピー変化の大きさが未報告な磁性体 約800に対し、モデルによる予測を行い、(i) 所望の転移温度の範囲に含まれる (ii) 毒性元素を含まない (iii) 安定と思われる (iv) 予測値が比較的高い という基準でスクリーニングを行い合成候補を選出した。 候補に上がった物質を実際に合成し、磁化や比熱などの測定を行い候補物質が示すエントロピー変化の大きさを実験的に求めたところ、候補物質 HoB2 が、5Tの磁場を用いた場合 15 Kで 40 J/kg・K と、巨大なエントロピー変化を示すことを見出すことに成功した。これは水素の液化温度(約20 K)近傍ではバルク材料としては最大クラスであり、水素の液化や、液化した水素の低温保持などに有用と考えられる。さらにHoB2の希土類サイト部分置換効果を実験的に調べ、Hoを一部DyまたはGdで置換した場合、エントロピー変化が大きくなる温度を部分置換により制御しうることや、エントロピー変化の温度依存性が変化しより広い温度範囲をある程度のエントロピー変化の大きさでカバーしうることを報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計算のスクリーニングおよび候補の順番付けとして提案していた機械学習モデルによる予測により、水素の液化温度近傍でバルク物質としては最高の磁気エントロピー変化を示す物質を見出し報告した。十分な威力を発揮しているといえる。今のところ予測精度自体は高くはなく、まだモデルは改良の余地を残すが、今後第一原理計算との対応や、実験データの蓄積等による改善の見込みがある。現状の精度自身が完璧でなくとも、膨大な探索空間におけるとっかかりを与える指針として有用であることを見出した。 上記の方法で見出したHoB2 については、一旦探索指針をモデルにより見出した後は、地道な元素部分置換効果の研究も行っている。希土類サイトの部分置換効果を調べた結果、磁気エントロピー変化が最大となる温度である磁気転移温度を部分置換によりある程度制御できることを見出し報告した。この部分置換により、磁気エントロピー変化の最大値が減少した場合でも、母物質に比べより広い温度範囲である一定以上のエントロピー変化を示すことから、例えば1つの材料でそこそこの冷凍性能でもより広い温度範囲をカバーさせたい場合などに適用でき、用いる磁気冷凍材料の選択肢の幅を増やす提案ができると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
すでにスクリーニングに威力を発揮している機械学習モデルと第一原理計算を併用し、探索を続ける。また上記のゼロベースの探索の他に、特定の系に絞った最適化を行う。すなわち、第一原理計算による予測が現状適用できているラーベス相化合物磁性体の部分元素置換に着目した、データ駆動型/計算予測主導の磁気冷凍材料探索を進める。 部分元素置換の効果を計算で吟味するにあたり、メタ磁性転移の条件判定は格子定数に敏感に影響される。このため、部分置換試料においてまず格子緩和の計算を行い、計算上安定な格子定数を求めた上でメタ磁性転移の条件判定を行うことで対応する予定である。計算量が増えるため、これらの一連の流れについて、なるべく自動化を進める。 機械学習モデルはハイパーパラメータ調整の他に、教師データ全体の増加や、教師データをクラスタリングしクラスタごとのモデル作成を試みるなど、改良を続ける。同時に、モデルの解析を試み、第一原理計算による予測が必ずしも容易ではない磁気冷凍に対し、新たな見地や隠れた原理・傾向を見いだせないか試みる。教師データのクラスタリング結果や、機械学習モデルにおける外れ値の傾向などから、一次転移と二次転移物質が区別できないか解析を進める。
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