最終年度は前年度に引き続き、保磁力を増加および減少させる効果のある被覆層とSm2Fe17N3磁性相の界面のTEM観察に取り組んだ。その結果、いずれの材料においても、被覆材料と磁性相との相互拡散層の厚みは10 nm以下であることが改めて確認された。さらに、被覆後に450℃で120分間を超える長時間の熱処理を施しても保磁力に変化はなく、形成されたヘテロ構造は熱的安定性が高いことが確認された。 期間全体を通し、磁石材料Sm2Fe17N3の保磁力がその巨大な磁気異方性に釣り合わないほど低い原因の解明に、独自の仮設の検証を通して取り組んだ。 保磁力が低い原因としては、結晶粒表面における結晶格子の断絶により、磁気異方性を担うSm 4f電子を取り巻く結晶場が大きく乱れ、Smの強い一軸異方性が失われた結果、粒子表面全体で磁化反転が容易になっているという仮説を採用した。その検証のために、表面上のSm原子が結晶内部と類似の結晶場を感じるように設計された特殊な非磁性材料で粒子をコーティングし、実際に保磁力が上昇することを確かめた。一方で、設計されたコーティング材料の結晶場係数を第一原理計算により計算し、その組成によりSm2Fe17N3との界面において、Smの局所的な磁気異方性が変化することを、第一原理計算により確かめた。最も効果のある被覆材料はSm2Fe17N3のSm2Fe17N3のFeを他の遷移金属で置き換えた非磁性の金属間化合物であり、これを被覆、熱処理を施した結果、保磁力が40%以上上昇することを確認した。また、この材料は保磁力の上昇と引き換えに磁化低下を引き起こすなどの副作用が見られないことが確認された。
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