研究課題/領域番号 |
20K05074
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
林 文隆 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (20739536)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 層状物質 / イオン交換 / 選択吸着 / リチウム |
研究実績の概要 |
環境浄化・資源回収の観点から,選択的にイオンを吸着・分離する材料の必要性が高まっている。無機イオン交換体は多様なナノ空間構造をもつため,イオン交換樹脂には見られない特異なイオン選択性をしばしば示す。サイズ認識効果等の吸着質に対する高い親和性が選択吸着の鍵である。しかし,選択性の起源や支配因子にかかわる基礎的知見が不十分なため,選択性をもつ無機イオン交換体の設計指針は確立されていないのが現状である。本研究では,特異な酸素配位構造をもつK2Ti2O5(KTO)結晶をフラックス育成し,そのイオン交換特性を評価した。特に,イオン交換前後の構造解析を行うことで5配位型チタン酸塩のイオン交換特性と構造の関係について考察した。 KTO結晶のアルカリ金属イオンに対するイオン交換特性を評価した。アルカリ金属イオンに対する選択性序列はLi+>Na+>Rb+>Cs+となり,負の離液順列に従う選択性を示した。この選択性序列は,従来のイオン交換体の選択性序列と真逆であった。キーランドプロットの結果から,イオン交換反応の平衡定数を見積もったところ,Cs+に比べ,Li+交換反応は熱力学的に有利であると示唆された。 イオン交換に伴うKTO結晶の構造変化を調べた。XRDパターンから,Li+交換によりKTO結晶の層間距離は0.652nmから0.681nmに変化することがわかった。Raman,FT-IRおよびTG-DTA測定の結果から,KTO結晶は水と反応し,Ti酸化物骨格の一部は変化することが示唆された。この骨格変化はXAFS測定やDFT計算結果からも支持された。以上より,KTO結晶は水1分子と反応し,K2Ti2O5+H2O → 2(KTiO2OH)のように変化していると考察した。この変化は,水和エネルギーの小さいCs+に対する親和性を低下させ,水和エネルギーの大きいLi+に対する親和性を高めたと考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画に従い実験を遂行し,ミリメートルサイズの5配位型チタン酸塩K2Ti2O5単結晶をフラックス育成することができた。この単結晶を用いて基礎的なイオン交換特性を評価し,その選択性を明らかにした。今回見出した負の離液順列に従う選択性は,従来のイオン交換体の選択性と真逆であり,研究対象として価値がある。XAFS・XRD・Raman測定等の実験結果とDFT計算の結果から、この選択性の起源は5配位チタン酸塩結晶の水和ナノ空間の局所構造に基づいていると考えた。具体的には,5配位チタンの一部は6配位に変化し表面水酸基が生じる。そのため,水和能の高いカチオンに対して選択性を示したと考えた。この知見は,新たな選択イオン交換体の設計につながると期待できる。そのため、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は今回得られた知見を活かして,酸化物骨格の複合アニオン化等に取り組み,対象イオンとの親和性やイオン交換過程での脱溶媒和をコントロールしさらにイオン交換体の選択性制御に取り組んでいく。対象イオンとして,有用資源となるリチウムや放射性核種をターゲットとする。また,さらなる機能化を目指して層状化合物の剥離や選択性をしめすハイブリッド膜の作製に取り組んでいく。特に,フラックス法の特徴を活かして,大型酸化物シートをモジュールとし,大型シートをタイリングして本手法ならではのハイブリッド膜を作製する。デバイスとして,これらの機能性材料の性能(吸着・分離性能・エネルギー吸蔵)を評価する。学会等での成果の発信や論文誌への投稿により,本研究で得られた知見をまとめていく。
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