研究課題/領域番号 |
20K05081
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研究機関 | 小山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
川越 大輔 小山工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (80420008)
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研究分担者 |
多賀谷 基博 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (20621593)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アパタイト / ナノ粒子 / 分散 / 透明薄膜 / 細胞試験 |
研究実績の概要 |
2022年度に計画していたHA透明薄膜上での細胞試験について、生きた細胞を位相差顕微鏡で観察することができた。 通常の合成方法で作製したHA粒子は、一次粒子がナノサイズと小さいものの凝集してしまうため、HAスラリーとした場合にマイクロオーダーの粒子のようにすぐに沈降してしまう。HA合成時に、クエン酸を添加し、適した条件で処理することにより、HAナノ粒子が分散したHAスラリーとすることができる。HAスラリー中のHA粒子は、すぐに沈降してしまうことがなく、たとえば成膜するときのスピンコートに用いた場合でも、スラリー中のHA粒子は均一な状態を保つことができ、均一なHA成膜が可能である。 2022年度は、クエン酸で分散したHAナノ粒子を用いてスピンコート法により、ガラス基板上にHAを成膜し、550℃で20分間以上の電気炉加熱により有機物を除去し、透明なHA薄膜を作製した。得られたHA透明薄膜の上で、骨分化誘導により骨芽細胞に分化するMC3T3-E1細胞を播種し、5%CO2、37℃のインキュベーター内で一定期間培養したのち、位相差顕微鏡を用いてHA透明薄膜上の細胞を観察した。比較となるガラス上の細胞観察に比べて、鮮明度等は劣るものの、HA透明薄膜上で生きた細胞の挙動を観察することができた。 しかし、詳細な解析を行うにあたっては、ガラス等の一般的に細胞培養や細胞観察に用いられる透明体上の細胞観察に比べて、細胞の観察がしづらい結果となった。これは、作製したHA透明薄膜の表面状態が均一でなく、表面粗さも高いことが関係すると考えられる。また、HA透明薄膜の表面を、より均一にし表面粗さを下げるためには、成膜で用いるHAスラリー特性の再検討が必要であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度に計画していたHA透明薄膜上での生きた細胞を用いた細胞試験について、HA薄膜の電荷が細胞に及ぼす影響等の詳細な検討が実施できていない。 これは、HA透明薄膜上で生きたMC3T3-E1細胞のリアルタイム観察はできたものの、ガラスやプラスチックの表面ほどには、鮮明な細胞観察画像が得られていないためである。このため、生きた細胞を用いたリアルタイム観察でしか成しえない細胞の連続的な伸展の観察やその解析については実施することができなかった。 均一で表面粗さの小さいHAを成膜するためには、スピンコート法による製膜条件や成膜後の有機物の除去条件の検討に加えて、膜の状態に大きい影響を与えるスラリー中のHA粒子の分散状態などの再検討が必要である。これらの最適化検討をし、ガラスの表面状態と近いHA透明薄膜を作製したうえで、細胞挙動の制御に関係する因子の検討をする必要がある。以上から、やや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で作製する多孔体は単に穴を有すればよいのではなく、細胞活動に適した気孔を持ち、かつ、マテリアル部分は高い空隙率であっても荷重を受け持てる強度が必要である。ここで、気孔部分の作製方法としては、複合した有機物を加熱により除去する等の方法があることから、いかにマテリアル部分を緻密化し強度を担わせるかが重要であると考える。つまり2023年度の多孔体の作製においても最適なHAスラリーの検討が重要となる。合わせて、2020年度のHA分散、2021年度のディップコートによる三次元基板への成膜、2022年度のHA透明薄膜上での細胞試験においても共通する重要事項は、HAスラリーの特性である。このことから2023年度では、HAスラリー特性(粒度分布・分散度など)の評価と検討がしやすい合成方法も検討する。 また、光を始めとする刺激応答性高分子との複合については、既報で紹介されている生体高分子について、HAスラリーと種々の条件で複合化し、粘度の影響も含めて検討していく予定である。
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