iPS細胞の樹立により社会からの再生医療への期待は非常に大きくなっている。細胞を用いた再生医療において、細胞の研究だけでは生体を再生することは難しく、細胞が増えたり新しい生体組織を構築したりするのに必要な足場材料の研究は重要で、骨再生における足場材料の候補として、生体骨の無機主成分に類似しているアパタイトが期待されている。よりよい骨再生の足場材料を作製するためには、アパタイト上での細胞試験の知見を集積することが必要であり、アパタイトを透明薄膜とすることで、透明なポリスチレンやガラスのように細胞試験に適したアパタイトが作製できる。この透明アパタイト薄膜の作製には、アパタイトの粒子制御が重要であり、我々はクエン酸を用いてアパタイトの粒子の形状や大きさの制御を行った。 通常の合成方法で作製したHA粒子は、一次粒子がナノサイズと小さく凝集してしまうため、HA合成時にクエン酸を添加することにより、粒子が分散したHAスラリーとすることができる。クエン酸分散HAスラリー中のHA粒子は、すぐに沈降してしまうことがなく、スピンコート法により、ガラス基板上に成膜し、電気炉加熱により有機物を除去することで、透明なHA薄膜を作製できた。 得られたHA透明薄膜の上で、骨分化誘導により骨芽細胞に分化するMC3T3-E1細胞を播種し、5%CO2、37℃のインキュベーター内で一定期間培養したのち、位相差顕微鏡を用いてHA透明薄膜上の細胞を観察した。比較となるガラス上の細胞観察に比べて、鮮明度等は劣るものの、HA透明薄膜上で生きた細胞の挙動を観察することができた。 また、HAスラリーと生体高分子を種々の条件で複合化することで、粘性を大きく変更させた新しい分散状態を保つことにも成功した。
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