研究課題/領域番号 |
20K05085
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
単 躍進 宇都宮大学, 工学部, 名誉教授 (20272221)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 酸化物イオン伝導 / 6価陽イオンによる5価ニオブの置換 / シーライト型構造 / 希土類ニオブ酸塩 / 構造相転移 |
研究実績の概要 |
2022年度の研究に続き,2023年度には当初の計画の高温酸素分圧制御可能な酸化物イオン伝導測定システムの代わりに,既存のインピーダンス測定装置の改良を進め,特に高温測定のための試料の固定・加熱,データ収集プログラムなどの修正を行なった。 6価の陽イオンW(VI)とMo(VI)による5価Nb(V)の置換の他に,Te(VI)による置換も試みた。テルル酸化物の融点が低い,一方希土類ニオブ酸塩の反応温度が高くて,溶融法や中間反応物質を介した反応をいろいろと試したが,溶融物または低温テルル系酸化物しか得られなかった。その他に,Spring8でNdNb1-xMoxO4+σ(0≦x≦1.0)試料のMo置換量と相転移温度の変化について調べた。単斜晶系フェルグソナイト相構造から正方晶系シーライト相構造への相転移温度(1100 K)がMo置換量の増加に伴い,250 K(x=0.1), 500 K(x=0.2), 800 K(x=0.3)に低下していることが明らかにした。さらに,NdNb0.8W0.2O4+δ試料の室温における中性子構造解析を行い,格子間酸素の座標は(0.30, 0.18, 0.26)付近に収束したが,温度因子(20)が大きかった。室温で格子間酸素を観測されなかったことが明確にした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画している酸素分圧制御可能な酸化物イオン伝導測定システムの構築がコロナ禍の影響と物価の高騰によって不可能になったため,既存のインピーダンス測定装置の改良,ならびに他の置換系試料の探索と得られた酸化物イオン伝導体NdNb0.8W0.2O4+δの中性子構造解析による格子間酸素位置の特定を予定していた。測定装置の改良と置換系試料の探索は,概ね予定通りに進めていた。しかし,中性子構造解析は,ToyouraらのLaNbO4の格子間酸素座標を参照にして室温中性子回折データを解析したが,格子間酸素位置の決定に至らなかった。理由として,この置換系は単純のシーライト型酸化物と異なり,置換による混相の可能性など経験不足が主な原因である。この系の酸化物イオン伝導性の起因(メカニズムの解明)は本研究の最大な目的であるため,できる限り実現したいと考え,今後の研究の推進方策にも述べたように,未置換の物質も中性子測定を行い,更に温度変化しながら,両結晶構造の変化を追跡し,置換による伝導キャリアである格子間酸素位置を定める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目標である置換による室温シーライト相の生成過程の解明,また格子間酸素と酸化物イオン伝導性の相関,つまり酸化物イオン伝導のメカニズムを明らかにすることを目標している。そのために,最終のR5年度にNdNb1-xMxO4+δ(M=Mo, W)を中心に以下の研究を進める。 1)Spring8のビームライン(BL02B2)を使って,WやMoによるNb置換と未置換のネジウムニオブ酸塩の相変化を追跡し,転移温度の決定ならびに各相の結晶構造解析をしっかり行う。 2)令和4年度の中性子構造解析の経験を生かして,さらに未置換と置換の試料の室温から高温までの中性子回折実験を行い,温度変化による結晶構造の変化を追跡する。置換と未置換試料の構造を比較しながら,格子間酸素の位置,および位置の変化(伝導ルート)を観測し,結晶構造とイオン伝導性の関連を明らかにし,W(またはMo)の置換による相転移のメカニズムを究明する。 3)新たな研究成果をまとめて発信に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が遅れた理由にも述べた通り,酸素分圧制御可能な酸化物イオン伝導測定システムの構築が難しかったため,備品の購入費用がほとんど発生しなかった。また,最初2年間のコロナ禍により,研究の遅れや学会発表がオンライン形式であったため,出張旅費もゼロになっていた。そのため,研究費が残っている。最終年度には,いまだに解明していなかった格子間酸素の位置,ならびにその位置の変化(伝導ルート)およびその格子間酸素と相転移の関係の解明を集中的に行う。そのためには,中性子回折に必要量の試料作製のための試薬や合成に関わる必要品の購入,測定施設への旅費や装置使用料などの経費を設けている。また,今年度に定年退職者になっているため,実験のために,放射線用バッチなどの費用,さらに学会の参加費と出張費,論文の投稿費も計上している。
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