研究課題/領域番号 |
20K05087
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
米崎 功記 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (20377592)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 珪酸塩 / フォトクロミズム / 蛍光 / 希土類金属イオン / 電子スピン共鳴 |
研究実績の概要 |
・珪酸塩化合物に添加した不純物イオンの光刺激前後の酸化状態観察 紫外光などの目に見えない光をあてると蛍光を発する物質は蛍光体と呼ばれ、白色LEDやプロジェクタのバックライトなどの光源に用いられている。近年、特定の光刺激を与えることで物質の状態が変化し、蛍光色が変化する無機酸化物蛍光体が申請者らにより発見された。光刺激により蛍光色を制御できる材料は、紫外線や放射線の検出用材料やスイッチング素子への応用が期待される。一方で光刺激により得られる準安定状態は日常生活においてさらされる可視光により元の状態に戻ってしまうという課題があり、実用化に至っていない。この課題を解決すべく、蛍光体の状態をモニタリングするために意図的に上記物質に混入した不純物の観察を通じて状態変化を観察したところ、光刺激により結晶から放出される電子が蛍光色の変化に影響を及ぼすことが明らかとなった。得られた結果を基に、原子の一部を別の原子に置き換えることで光刺激後の状態を安定化することに成功した。 ・光刺激により電子を放出する酸化物単結晶の育成 光刺激により蛍光色が変化する現象、即ち光刺激により物質内部から電子が放出される現象がどのような結晶構造に起因するかを明らかにするには、単結晶と呼ばれる目に見えるサイズの結晶を分光学的に調査することが望ましい。しかし現在まで蛍光色変化を示す珪酸塩蛍光体に関して単結晶育成に成功したという報告例はない。そこで同じ結晶構造(陽イオンと陰イオンの配列)をもつ別の酸化物結晶を育成し不対電子を観察したところ、光刺激時に特定の局所構造から電子が放出されることを示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は申請者が発見した光刺激により蛍光色が変化する珪酸塩化合物に関して【1.珪酸塩蛍光体結晶への構造歪み導入】【2.光刺激による蛍光色変化の原因解明】【3.蛍光色変化に寄与する構造的特徴の解明】【4.蛍光色変化に寄与する構造の高密度導入】の4項目を3年間で実現する計画である。 1年間の研究期間を経て、項目1については上記化合物の構成イオンを一部置換し、結晶構造に化学的圧力をくわえることで構造歪みをもつ化合物の合成に成功し、光刺激後の蛍光色の変化量と構造歪みに関連があることが明らかとなった。 現在は項目2の課題に取り組んでいる段階である。上記珪酸塩蛍光体と同じ結晶構造(陽イオンと陰イオンの配列)をもつ酸化物単結晶の育成に成功し、同じ結晶構造をもつ別の物質が光刺激に対して示す反応を比較することで課題の実現に取り組んでいるところであり、進捗状況は順調である。 本研究は物質内部の不対電子の観察を通して研究課題を達成することを目的としており、電子スピン共鳴法によりこの観察を実現する研究であるが、申請者の予定もしくは予想通りの結果が得られない場合には不対電子の観察を取りやめ、赤外・ラマン分光法といった振動分光学に基づいた観察を通して構造歪みが蛍光色変化に及ぼす影響を調査する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は申請者が発見した珪酸塩蛍光体にみられる「光刺激により蛍光色が変化する現象」の原因を特定し、その変化量および安定性の改善・改良を試みるものである。今後は 【蛍光色変化を示す物質の単結晶育成】過飽和水溶液からの結晶育成などの手法により目的物質と同じ結晶構造をもつ酸化物を育成し、光刺激蛍光色変化が結晶構造に由来するものか、それ以外の要因による現象であるかを明らかにする。 【不対電子の幾何状態およびその対称性の観察】前項目で育成した単結晶に対する分光学的スペクトルの異方性や光刺激前後のスペクトル変化から、光刺激により生成した不対電子の幾何形状もしくは対称性を評価し。光刺激により電子を放出しやすい構造単位や歪みの特徴を解明する。 【不対電子が高密度発生する酸化物の開発】上記課題の結果をうけ、光刺激により不対電子が高密度発生しやすい結晶構造をもつ物質を開発する。 に順を追って取り組む予定である。
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