研究課題/領域番号 |
20K05090
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
宮川 勇人 香川大学, 創造工学部, 准教授 (00380197)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Eu賦活蛍光体 / Eu蛍光体 / リートベルト解析 / CASN / SMS / Sr3MgSi2O8 / 電子スピン共鳴(ESR) / 結晶場 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、Eu賦活蛍光体として赤色発光するCaAlSiN3:Eu(CASN:Eu)および青色発光するSr3MgSi2O8:Eu(SMS:Eu)に結晶場分裂エネルギーの定量測定が可能なESR(電子スピン共鳴)法を適用し、別に行う結晶場分裂エネルギーを過程したシミュレーション計算と実測との比較から、Eu賦活蛍光体における結晶場と発光波長との関係を明らかすること、さらに母体における元素組成の調整により発光波長の制御を行うことであり、これにより戦略的な発光波長の制御を可能とするものである。 本年度(1年目)においては、主にSMSに主眼を当て、試料作製時の焼成温度が発光スペクトルに及ぼす影響について結晶構造ならびにEu周りの配位状況の観点から調べた。焼成温度が1000℃以下の低温の場合において主相でありSMSに加えSr2SiO4(SS)が副相として出現してこれが黄色の不純発光の起因となる可能性が高いことから、X線回折をもとにリートベルト法による結晶構造シミュレーションを行うにあたり低温焼成の場合には2相フィットを導入することで原子の座標を高精度に取得した。また、発光波長に大きく影響を及ぼす酸素位置について疑正四面体拘束条件下でのフィットを行った。 得られたEu周りの配位状況を可視化し各結合距離と角度について発光波長と比較したところ、主相のSMSにおいては結合距離の分散が0.3Å以下となり、副相のSSの分散約0.5Åより小さい結果が得られた。SS相においてはEuに近接する酸素原子の影響を受け、Eu2+の5d準位から電子が奪われることでエネルギー準位が下がり黄色発光が起こると推察された。 Eu周り状況がSMS相とSS相とで異なることはESRスペクトルにおいても確認され、次年度以降において行う計画であるESRスペクトルから結晶場パラメータ(異方性因子)の定量評価の解析指針が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度(1年目)においては、2種類の蛍光体、CaAlSiN3:Eu(CASN:Eu)およびSr3MgSi2O8:Eu(SMS:Eu)について①試料を準備し、それぞれに対し②X線回折(XRD)測定、③電子スピン共鳴(ESR)測定、④フォト・ルミネッセンス(PL)測定を行い、得られた構造・組成パラメータをもとに結晶場解析を行うことであった。①の試料準備については、CASNおよびSMSとも作製条件の異なる試料を物質・材料研究機構(NIMS)の蛍光体グループおよび東京化学研究所にて作製したものを準備した。それらについて②XRD③ESRの測定をそれぞれ行い実験データ取得を行うことができた。一方、④PL測定については、当初1年目に導入予定としていた紫外光レーザー(CW266nm、FREQUADオキサイド社)が外国製であり、予定納入業者の方針変更により導入困難となったため実験系を組むことができなかった。国内製を検討したものの同スペックの適当な価格帯装置が見つからず導入は次年度持ち越しすることとなった。暫定策としてNIMSおよび東京化学研究所にて測定されたスペクトルデータとして本研究において使用した。 またデータ解析のために、本年度上期においてPCの導入、実験データ・計算データの解析環境の構築を行い、下期において②XRDデータを用いたリートベルト法による結晶構造解析を行った。SMS試料については低温焼成の場合は、副相となるSSの出現により2相フィットを行う必要があった。またX線散乱因子の小さい酸素の原子位置取得が難しく信頼度を向上させるべく、疑正四面体拘束を行いながらリートベルト解析をするコード構築を行った。コーディングと計算手順の確率に予定よりも時間を要したものの、結果として信頼性の高い酸素原子位置の取得に成功した。このため結晶場計算については次年度にて行うこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
2年次においては、結晶場解析のためのPCの導入を行い、計算環境を整えた後、1年次において得られた結晶構造パラメータをもとに配位子場理論に基づく結晶場シミュレーションを行う。これとESRスペクトルとを比較し妥当性の検討を行いながら結晶場エネルギーの取得を行う。得られた各試料の結晶場エネルギーとPLスペクトルとから、Eu周りの配位構造の変化が結晶場エネルギーをどう変化させ、それが発光波長シフトにどう影響するか定量評価を行う。 2年次の下期において、これまで得られた知見をまとめ対外報告(学会発表および論文発表)を行う。次に、結果に基づいた設計指針を立て試料作製条件(組成・焼成温度)を変化させた試料を再度用意し、1年次同様にXRD、ESR、PL測定を行いデータ取得する。PL測定においては、紫外光レーザー(CW266nm)を導入し新しくPL測定系を組む予定とするが、適当な価格帯でのレーザー装置導入が叶わない場合はNIMSおよび東京化学研究所それぞれに測定依頼することをスペクトル取得の代替策とする。XRDデータについてはリートベルト解析を行い結晶構造パラメータを取得する。酸素位置については1年次に構築した疑正四面体拘束下での解析ルーチンを利用する。 3年次においては、得られたESRデータの結晶場子ミューレション解析を進め、PLスペクトルと照合することで2年次でまとめた結晶場エネルギーと発光波長の相関と合わせることで理論モデルを構築する。結果を学会および論文発表すると同時にHPにより広く公開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初1年次においてフォト・ルミネッセンス(PL)測定に用いる光源として紫外光レーザー(CW266nm、FREQUADオキサイド社、予定額50万円)を導入することとしていた。しかし想定していた装置が外国製であり、これについての予定納入業者の外国製品取り扱い方針変更があったため、新たな納入業者の選定もしくは同スペックのレーザー装置の導入の検討が必要となった。しかしながら当該装置の納入を行う業者を見つけることが年度内に叶わず、また同スペックの国内製品で同価格帯の装置が見つからなかったため当該年度の導入を断念せざるを得なかった。(見つけられた国内製品はおよそ100万円もの価格であった。)2年次において、中古製品も視野に同スペックのレーザー装置の導入を試みる予定である。その価格に応じ、2年次に導入予定のPCの計算能力等の仕様や同時期に支出予定の学会費や文献調査費、論文作成費について再調整を行いながらスケジュール全体に支障が出ないよう本研究を遂行する予定である。
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