研究課題/領域番号 |
20K05091
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
村田 貴広 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (70304839)
|
研究分担者 |
猿倉 信彦 大阪大学, レーザー科学研究所, 教授 (40260202)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ガラス / シンチレータ |
研究実績の概要 |
本研究では,高速応答性能を誇るPr3+をドープする新規なマトリクスガラスを独自の組成設計指針に基づいて開発し,高速応答と高輝度を兼ね備えた中性子イメージング用ガラスシンチレータ材料の開発研究を行うことを目的としている. 通常,シンチレーション蛍光を担う賦活剤をガラスに高濃度にドープすると発光量が著しく低下する濃度消光が生じる.本年度では,20Al(PO3)3-80LiF(APLF80)ガラスをベースに濃度消光することなくPr3+を高濃度にドープできるガラス組成の開発を行ない, Pr3+の濃度増加に伴う単調な高輝度化のみならず,中性子捕獲中心のLi+とPr3+の距離が接近することで相互作用頻度が増大する効果を加えた飛躍的な高輝度化に取り組んだ. サンプルについては,溶融急冷法で調製し,サンプルのフォトルミネセンススペクトルを市販の蛍光分光光度計で測定した. APLF80ガラスをベースに改良を加え,APLF80ガラスと同等のLi+含有率で化学的安定性を向上させたガラスの開発に成功した.この新規に開発したPr3+ドープガラスは, Pr3+ドープAPLF80ガラスと比較して,励起可能域がさらに長波長まで拡張され,蛍光スペクトルでは250 nm 付近の成分を高めることができた.このことは,励起スペクトルの拡張により励起エネルギーを効率よく吸収できることによって発光量の増大に寄与することが期待できるとともに,短波長成分の増加により高速応答性能の向上につながることが期待できる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回新たに開発したガラスについて,Pr3+ドープ濃度を系統的に変化させ,蛍光寿命および発光量に関する計測を行なって蛍光特性に関する物性値をさらに集積するとともに,シンチレーション特性についても評価を行うべく研究を継続して取り組んでいる. 今回報告を行なった研究成果と並行して,APLF80ガラスに真空紫外蛍光を示すNd3+をドープしたサンプルを調製し,その光学特性についても研究に取り組んだ.その結果,Nd3+ドープAPLF80ガラスは高速中性検出における真空紫外シンチレータ材料として期待できることを明らかとした.この成果について論文に掲載された.
|
今後の研究の推進方策 |
通常の多くの酸化物ガラスでは,Pr3+の深紫外蛍光波長領域に対する光透過能が低い.さらに,中性子イメージング用シンチレータに求められる必須条件であるLi+高含有組成では,紫外光を強く吸収する非架橋酸素が大量に生成されるので,ガラスの紫外透過能が著しく低下する.従って,Li+を多量に導入しても紫外透過特性を維持するガラス組成の設計が必要となる.ここで,申請者らはAPLF80ガラスで達成したLi+を高濃度化してもフッ化物を複合することによって,真空紫外域まで透過能を維持できる組成の開発に成功している.この独自の開発によって見出した酸化物とフッ化物の陰イオン複合効果を応用展開した組成設計指針に基づいて,Li+高含有酸化物ガラスをベースにフッ化物を複合化させた,APLF80に代わる新規なガラス組成の開発に挑戦する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
主に研究分担者との研究打ち合わせ等,当初予定していた旅費の支出がなかったため次年度使用額が生じた.次年度ではガラス製造に関する高純度試薬およびガラス製造用器具を中心に物品費として使用する予定である.
|