研究実績の概要 |
層状構造をもつ六方晶マンガン酸化物RMnO3(R = Y, Ho-Lu)は酸素吸収・放出の挙動を示すことから、酸素貯蔵材料として期待されている。本研究では、これらの酸化物のMnの一部をTiで置換したR(Mn,Ti)O3+δについて、酸素吸蔵特性を調べるとともに、結晶構造学的なアプローチにより、酸素の吸収・放出の現象のメカニズムの解明することを目的とした。 まずは、Ho(Mn1-xTix)O3+δの作成試料について、XAFSによる金属イオンの価数の評価から、作成時に過剰酸素が含まれることを明らかにした。次に、高分解能放射光回折データを用いた精密構造解析により、x ≧ 0.15で現れる菱面体晶系の相について、空間群R-3cに基づいて酸素位置を含む結晶構造解析に成功した。その結果、Mn/Ti-O層内において、隙間位置を過剰酸素の一部が占め、5配位の位置を占めていた一部の酸素が大きく欠損していた。また、この酸素欠損の仕方とHo原子位置のc軸に沿った方向の変位に相関があることがわかった。 次に、Ho(Mn,Ti)O3+δ(x = 0.3)について、Ar, 空気、酸素中のそれぞれの雰囲気中における熱重量測定を行い、酸素の吸収・放出にともなう質量変化を示すことを明らかにした。次に、高分解能放射光粉末回折のその場測定を熱重量測定と同様の条件で行った。その結果、酸素吸収・放出にかかわらず菱面体晶系のままであるが、酸素吸収・放出する温度範囲で格子定数の温度変化に異常が観測された。また、構造解析の結果、酸素吸収量の増加にともなってMn/Ti-O層内における隙間位置の酸素占有率が増加し、5配位位置の酸素占有率が減少していくことがわかった。これらの結果から、酸素吸収・放出の特性は、Mn/Ti-O層内の酸素占有率を柔軟に変化させることができる特徴を有することに起因していると示唆される。
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