現在、コンピュータの主記憶メモリの消費電力が大きいというエネルギー問題が未解決のままである。本課題では、この問題を克服する可能性がある次世代不揮発メモリとして期待されているアモルファスアルミ酸化膜における酸素空孔の物性を研究した。まず、不揮発メモリ効果を示すアモルファスアルミ酸化膜を用いて、放射光による酸素吸収端近傍の吸収スペクトル測定データの解析を行った。その結果、薄膜の深さ方向のメモリ状態に関する知見を得ることができた。表面から約10nmまでの深さに位置する酸素サイトの電子状態が主に変化することにより、アモルファスアルミ酸化膜のメモリ状態が変化することを明らかにした。メモリ機能の性能向上のためには、この領域内の成膜条件の制御・管理がより重要であるという重要な指針を示すことができた。これらの知見を基に、アモルファスアルミ酸化膜メモリの酸素空孔の様子を明らかにするために、陽電子消滅法測定を行うのに適したモデル試料の作製を行った。最終的に、アモルファスアルミ酸化膜試料の酸素空孔の状態を明らかにするために、適切な成膜条件や基板の種類・膜厚の大きさの検討を行い、基板は、Si基板を採用し、膜厚は75nmとすることに決定した。続いて、アモルファスアルミ酸化膜に対して、局所的な酸素空孔の違いがメモリ性能に与える影響を明らかにすることを目指した。不揮発メモリの性能は、成膜条件により大きく変わる。今回は、不揮発メモリ性能を変えたアモルファスアルミナ薄膜を成膜し、酸素空孔の様子を比較した。 陽電子入射エネルギーを制御し、平均打ち込み深さが約10nmになる測定条件下で陽電子消滅測定を実施した。得られた陽電子消滅寿命スペクトルの解析を行った結果、アモルファスアルミ酸化膜作製時の原材料の加熱温度が高いほど、平均陽電子消滅寿命値が長くなることを明らかにした。
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