研究実績の概要 |
無機ガラス物質の転移点近傍でのダイナミクスは粘性流動やガラス転移現象を理解するうえで重要である。その中でも、カルコゲナイドガラスに共通する特異な二段階の応力緩和現象、つまり、軟化点近傍で10~100秒程度の早い緩和と数1000秒もの緩和時間を持つ遅い緩和が存在することが明らかになってきた。本研究ではこの高温緩和の機構解明のため、比較的単純な三元系(Ge-Sb-S, Ge-Sb-Se)および四元系(Ga-Sb-Sn-S)カルコゲナイドガラスを対象とした。粘弾性緩和挙動のエネルギー論的解析と高温下でのラマン散乱分光、X線吸収端微細構造(XAFS)解析等を組み合わせた解析により、微視的な高温ダイナミクスの解明を行った。三元系ガラスにおいては、化学量論組成・非化学量論組成によるガラスの結合状況の差異に注目した。いずれのガラス系においても早い緩和と遅い緩和が確認され、それらの活性化エネルギーは弱い同極結合(S-S, Se-Se, Ge(Sb)-Ge(Sb))および強い異極結合(Ge-S, Sb-S, Ge-Se, Sb-Se)の結合解離エネルギーと相応した。ガラスの軟化において同極結合の解離・再結合が現象の支配的要因であるが、ガラスネットワークの組み換えが必要となる異極結合の解離・再結合がゆっくりとした機構として現れることが示唆された。四元系ガラスについても2段階の緩和が観察され、それぞれガラス構造内の弱結合と強結合に相応することが示唆された。高温ラマン散乱解析からは、転移点以下の温度でのカルコゲンの解離と示唆されるラマンバンド強度の変化が観察され、化学量論組成ガラスにおいても弱結合が存在ことと矛盾しなかった。この比較的低温での弱結合の解離はXAFS解析においても確認されたことから、2段階緩和機構の微視的レベルでの描像が解明された。
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