研究課題/領域番号 |
20K05098
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
古川 怜 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (50589695)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プラスチック光ファイバー / 異方性介在物 / 弾性変形 / 複屈折相殺効果 / マイクロメカニックス |
研究実績の概要 |
本課題は、介在物が均一分散されたプラスチック光ファイバーを対象とし、曲げや押し潰しなどの光ファイバーの変形により内部の介在物がどのような動きを示 すかを解析することを目的とする。ここで介在物とは、主として形状に異方性があり、可視光の散乱、吸収などを含めた何かしらの作用をするものを意図する。 光ファイバー内の介在物の動きが理解できれば、光ファイバー自体の変形や動きを介在物と伝搬光の相互作用を出射信号として検知することにつながる。 本研究においては、介在物の動きを実験的に理解するために、多加谷、小池らによって提起された複屈折相殺効果のある共重合体をコアとしたマルチモード光 ファイバーを介在物の担体として選び[Tagaya et al, Macromolecules, 39, 3019 (2006)]、理論と実測の双方から検証可能な系を構築することを指針として、 介在物を選定した。
2020年度に検証を行なったアゾ系二色性色素に加え、2021年度はフタロシアニン誘導体を前者とは異なる異方性を持つ介在物として検証に加えた。また、2020年度に引き続き、プラスチック光ファイバープリフォームを共重合体による界面ゲル重合法で作製するにあたって発生する重合比の「ゆらぎ」が計測に与える影響について、マルチモード光ファイバーのモード分配評価法を用いて検証した。この屈折率ゆらぎは光ファイバーからの出射信号を使って介在物の配向を知る本研究の目的には負に働く。今回の検証によって、この「ゆらぎ」を抑制する試料作製条件について、複数の示唆を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、主として以下の2つの検討を行った。
(1) 担体となる複屈折消去ポリマーをコアとするマルチモードプラスチック光ファイバーのモード定常化特性を評価した。2020年度の申し送りとして、界面ゲル重合により共重合を行う際、共重合の「ゆらぎ」が発生することが示された。この発生の機構は未だ説明できていないが、2021年度は、作製した光ファイバーの干渉像測定による屈折率「ゆらぎ」の観測、ファイバー化した状態での伝搬モードの定常化評価などを通じて、この「ゆらぎ」を抑制する試料作製条件について、複数の示唆を得た。
(2) 2021年度は、アゾ系二色性色素に加え、フタロシアニン誘導体を複屈折消去ポリマーへ分散させ、この複合材料をマルチモード光ファイバーのコアとした。2020年度の次年度への推進申し送り事項として、当初介在物として扱っていた二色性色素は、介在物として周囲マトリックスとの理論的に力学的相互作用を考察するにあたって小さすぎる事を受け、一定の凝集して結晶構造を形成する低分子色素を介在物として新たに検討に加えることを予定した。フタロシアニン誘導体で凝集を起こすものも検証に加えたが、凝集構造を介在物として取り扱うことは試料の再現性に懸念が残り、2021年度に用いたフタロシアニン誘導体は当時の検証予定に加えていた「大きい」介在物という位置付けにはならない。一方で、光合成タンパクなどでポルフィリンの秩序ある配列が光吸収特性に影響を与えることから、類似構造をしたフタロシアニン誘導体(ただしモノマーへの分散性が確認されたもの)においてはその異方性に着目して検証に加えた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、主として以下の2つの検討を進める。
(1) 複屈折消去ポリマーをコアとするマルチモードプラスチック光ファイバーの共重合「ゆらぎ」を抑制する条件を実践し、伝搬モード定常化の影響が最小限のファイバー長で介在物が光ファイバーの変形で配向する挙動を捉える。また、応力印加系に関しても見直しを行い、より高い色素配向度が得られるような実験レイアウトを構築する。
(2) 加えて、上の検証に対して理論モデルを使った評価を行う。介在物に関しては、これまでに使用した二色性色素とフタロシアニン誘導体に加え、引き続き、理論構築のしやすさを加味して、より大きいサイズの介在物の導入を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行上、常用している機器やソフトウェアの更新が重なったから。例として、光ファイバー線引き装置や保冷試薬庫のパーツ更新、分光器のランプ交換、ポンプ交換などが挙げられる。
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