生体材料として期待される硬質膜であるDLC(Diamond-Like-Carbon)膜表面にフェムト秒レーザ照射によってナノオーダーの微細構造を形成し,低摩擦係数を維持しながら高い抗菌効果の発現を可能にする新規材料の開発を目指している.フェムト秒レーザ照射によって表面にナノオーダーの微細な構造を形成し,その微細構造をSEM(走査型電子顕微鏡)およびSPM(走査型プローブ顕微鏡)で観察し、凹凸形状を測定した.ナノ構造の抗菌性は,大腸菌を用いたフィルム法(JIS Z 2801)にて行い,培養後の生菌数で評価した. 2020年度は,LC膜,CrN膜,TiN膜にナノ構造付与を行った.いずれの膜においても微細構造の形成によって表面粗さが増加するに従い,生菌数が増え抗菌性の低下が見られるが,ナノ構造のアスペクト比(溝深さ/周期間隔)が大きくなると抗菌性が高くなることが確認できた.また,膜種の違いが抗菌性に影響を及ぼすことがわかった. 2021年度は,2種類のDLC膜(ta-C,a-C:H)にナノ構造付与を行った.いずれの膜においても200nm以上の周期を持つ微細構造が形成されれば抗菌性が向上することがわかった. 2022年度は2種類のDLC膜に加えてTiおよびSUS304にナノ構造付与を行った.DLCでは,アスペクト比Δが,100≦Δ≦200nmの範囲では抗菌効果が発現した.SUS304やTiにおいても抗菌効果が確認できた. これらの試料の結果を比較すると,未加工時もナノ構造付与時もDLCが最も抗菌効果が高いことがわかった.次に,抗菌効果付与面のボールオンディスク摩擦試験を行った.試験は,ボール材をPEおよびアルミナとし,水滴下中で行った.その結果,ナノ構造付与によってDLCはアルミナ,TiはPEに対して顕著に低摩擦化した.これらの結果については,学術講演会および産学連携研究フォーラム等にて報告した.
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