研究課題/領域番号 |
20K05115
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
入澤 寿平 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (30737333)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 炭素繊維 / リサイクル / 炭素繊維強化プラスチック / 強度復元 / 表面処理 |
研究実績の概要 |
軽量化の観点からサステナブル社会の実現に大きく貢献する炭素繊維強化プラスチック(CFRP)であるが,そのリサイクル 技術開発が急務に進められている.リサイクル炭素繊維(rCF)としてCFRPから回収し,再利用する検討が進めれれてきた.申請者は新品CF(vCF) と種々rCFの物性比較に関して研究を行ってきたが,(1)表面傷や応力集中源となる樹脂残渣の影響によるrCFの強度低下, (2)樹脂-CF間の界面接着に影響する含酸素官能基量の低下が課題であることを明らかにしてきた. そこで,本研究は,rCFを自動車用途などの構造材料としてCFRP等に再利用することを再目標として,樹脂残渣の浄化や表面傷の鈍化による強度復元,官能基付与効果が期待できる液相によるrCFの表面酸化(エッチング)処理技術を確立することを目的とした.界面接着や繊維強度の観点からCFRTPの力学物性へのエッチング処理効果を検討し,処理条件と強度や界面接着力との相関の体系化,性能復元メカニズムの解明に学術的観点から取り組んできた.2020年度には,rCFを回収する有力な処理方法である熱分解法に注目し,その損傷要因を明確にし,エッチング処理効果が得られる可能性が示されていた. 2021年度はさらに研究を深化させ,強度復元に関するメカニズム解明に注力した.酸化力の強い液体への浸漬では表面傷がさらに拡大し強度低下してしまうが,マイルドな酸化条件が得られる液体への浸漬によって,rCFに存在していた鋭利な欠陥が鈍化することを明らかとした.また,炭素繊維は強度のばらつきが大きい材料であることが知られる中で,表面傷を鈍化させるとともに,強度のばらつきを小さくすることができることも明らかにした.また,rCFの再利用方法としてCFRP以外にも母材も炭素材料であるC/Cコンポジットとしての可能性があることも見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2020年度には,CFRPからrCFを回収するに際の損傷メカニズムを解明に取り組み,rCFを回収するに際して,樹脂分解時に生じる発生ガスがrCF表面に損傷を与えることを明らかにしていた.2021年度は,この損傷はレーザー顕微鏡によって明確に観察ができることを明らかにしたとともに,エッチングによって平滑化させることが可能で強度復元ができることを示し,熱可塑性樹脂を母材とするCFRP(rCFRTP)として再利用するための基礎検討を開始した. 具体的には熱分解法で回収されるrCFは,vCFと比較して最大で半減,最小でも25%程度は強度低下することを明らかとしていたが,最適条件でエッジング処理を行なった場合には,低下率を50%程度改善させることに成功した.また,強度復元したrCFには含酸素官能基量もvCFと同程度まで復元することも明らかとした.さらにエッチングrCFを熱可塑性樹脂と二軸混練と射出成形によってrCFRTPに加工し,vCFの場合と比較検討を行い,得られるrCFRTPの力学物性がvCFRTPと遜色ない力学物性を達成することを明らかとした. また,本研究から派生して,rCFの他用途展開としてC/Cコンポジットとしての再利用の可能性も見出した.通常は難黒鉛性として知られるフラン樹脂と複合化させ,3000度の熱処理を施すと,その処理時に母材-rCF間で応力が発生することによってrCFに沿ってフラン樹脂が黒鉛化することを明らかとした.炭素繊維の元々の電気伝導率の高さと相乗効果によって高い電導率を達成した. 上記の成果に対して2021年度,学会や招待講演を行なったほか発表したほか,2本の誌上投稿を行うことができた. 総じて,計画以上に進捗は良好である.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目標は,rCFを自動車用途の構造材料としてCFRPに再利用できる状態まで復元する表面処理技術を確立し,CFRTPの強化繊維として再利用して実用に 耐えるCFRTPの作製を実現(不連続繊維強化CFRTPとして,競合材料に遜色ない強度400MPaと弾性率30GPaを等方的に達成)することである. 2021年度までに,おおよそ処理条件と強度や界面接着力との相関の体系化や,性能復元メカニズムの解明は達成でき,エッジング 処理を具現化することができた.2022年度は,さらに実用化レベルの研究への移行を想定し,関連企業との連携によって大量処理を行なった際の再現性やその際に生じる課題を明確にする. 特に過去2年間で得られた技術は関連企業への技術移転に値するものであるため,2021年度同様に外部への公開を率先して行うとともに,新規性が認められる技術も得られていることから特許出願を目指し.実用化研究への移行への飛躍を目指した広報活動も率先して行う..
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