研究実績の概要 |
内服薬や注射薬の副作用に苦しむ患者を救う有力な方法の一つとして、ドラッグデリバリーシステム(DDS)がある。DDSの薬剤キャリア候補として注目されているセラソームは、リポソーム表面をシロキ酸結合(Si-O-Si結合)で補強された強固なベシクル構造を持つため安定性に優れる。一方で、開封が難しいという課題があった。セラソーム開封のためには、結合に関与する電子状態の知見が必須であるが、表面のミクロな物性に注目した理論研究はほとんどなかった。本研究では、セラソーム表面のモデルを構築し、その電子状態を明らかにすることで開封方法の指針を与えることが目的とする。これまでの研究結果によってベシクル構造を形成した際にシロキ酸結合の反結合性軌道が電子エネルギーギャップ中に孤立して出現することが明らかになっていた。この反結合性軌道に電子励起することができれば、セラソーム開封が可能になる。 これまでの研究では最も単純な6員環格子を基本としたハニカム構造を使用していたが、現実のセラソーム表面にはさまざまな格子構造が存在している。本研究では、5, 7員環を含むモデルやさらにそれらの一部に置換機を導入したモデル構築を行なった。電子状態解析の結果、孤立した反結合性軌道はそのエネルギー準位はシフトするものの依然としてギャップ中に孤立して存在することが明らかになった。また、全エネルギーを比較することで、5,7員環やOH基などの置換基の存在は安定性に大きく寄与することも明らかになった。 並行して、基礎物性解明のモデルケースとして、有機分子結晶の電子状態計算を行なった。結晶中に金属元素がドープされた場合に母体となる結晶の電子状態に与える影響を明らかにした。この結果は、セラソーム中のコネクタ部分の電子状態解析に応用することが可能である。
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