研究課題/領域番号 |
20K05125
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
橋本 直幸 北海道大学, 工学研究院, 教授 (50443974)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 低放射化 / 積層欠陥エネルギー / 照射損傷 / 微細組織 / 機械的特性 |
研究実績の概要 |
既存軽水炉の炉構造材料開発は、高信頼性及び高安全性を有するオーステナイトステンレス鋼や低合金鋼といった鉄鋼材料を中心に行われてきたが、近年になって、特異な材料特性を有するハイエントロピー合金(HEA)を原子炉構造材料へ応用するための基礎研究が活発化してきた。中性子照射下では、FCC型構造材料中にフランク型転位ループや積層欠陥四面体(SFT)といった積層欠陥型の2次欠陥が形成・成長することで、材料の照射硬化や照射脆化が生ずる。これらの照射欠陥と積層欠陥エネルギー(SFE)には密接な関係性があると考えられることから、本研究では、Mnの濃度を変えたCoCrFeNiMn系のHEA及びMn、Niの濃度を変えたFeCrNiMn系HEAを試作した後、各材料のSFEをTEM観察により実験的に算出し、既存のFCC型原子炉構造材料と比較することで構造材料としての成立性について検討した。 高周波溶解及びアーク溶解によって作製したCoCrFeNiMnx合金及びCr0.8FeNixMny 合金に対して均質化熱処理(1160℃, 24h)、冷間圧延、再結晶熱処理(900℃または1000℃, 4h)を順次施した。続いて公称ひずみε = 5%まで引張試験を行った試料に対し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて<111>方向から拡張転位の幅を精確に測定し、SFEを算出した。 CoCrFeNiMn系HEAと比較してFeCrNiMn系HEAのSFEの方が大きく、いずれの系においてもSFEの値はMn及びNi濃度の増加に伴い上昇する傾向が観られた。この結果は、Mn及びNi濃度が高いHEAほど、照射によって導入されるSFTやフランク型転位ループの形成を抑制する可能性を示唆しており、今後の耐照射性の高い新規HEA材料創製の道筋を示すものと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Coフリーの低放射化FeCrNiMn系HEAの積層欠陥エネルギーが、CoCrFeNiMn系HEAと比較して明らかに大きくなり、かつ想定していたNi及びMnの濃度との相関がほぼ線形であった。この結果は、MnおよびNi濃度を制御することで、耐照射性の高い新規HEA材料創製への道を開いたという意味で特筆に値する。続いて、当該HEAに対して引張試験を行った結果、Cr0.8FeNiMnを除く3種の合金は比較材である316Hと同等あるいはそれ以上の引張強さを有することが分かった。また、Cr0.8FeNi1.3Mn1.3が最も優れた引張強さ及び伸びを示した。注目すべきは、本研究で作製したHEAはNi+Mn濃度の上昇に伴い引張強さと伸びが共に増加することである。この現象は通常の合金でみられる引張強さと伸びのトレードオフ関係に当たらないきわめて特異な性質と言え、本研究で新しく得られた重要な知見である。
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今後の研究の推進方策 |
SFEの上昇については、Ni+Mn濃度の増加に伴いHCP相とFCC相の自由エネルギー差が増大することに起因していると推察される。このNi+Mn濃度とSFEの相関は耐照射特性に影響を及ぼし、引張強度及びSFEが最大のHEAの照射損傷組織では、比較材の316鋼とは明確に異なる照射損傷組織が観られると推察される。加えて、陽電子消滅測定結果では、HEA中のCo,Ni,Cr, Mn元素近傍に格子欠陥及び析出物が集積する傾向が観られており、照射損傷組織の変化については上記を踏まえた更なる詳細な検討が必要である。今後、FeCrNiMn系HEAの照射実験(電子線照射その場観察及びイオン照射)を行い、照射組織や機械特性の変化を調査することで、SFEと照射挙動の関係を明らかにする。またAlFeCrNiMn系HEAのSFEを実験的に算出し、FCC型HEAのSFEに及ぼすAl濃度の影響を調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の情勢で、計上していた旅費分の執行が難しくなり、施設利用等経費での流用を試みたが最終的に差額が生じた。繰り越し分は、消耗品の購入に充てる予定である。
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