研究実績の概要 |
原子炉構造材料の開発は、これまでオーステナイトステンレス鋼及び低合金鋼といった信頼性の高い鉄鋼材料を中心に行われてきたが、近年になって特異な材料特性を有するハイエントロピー合金(HEA)に注目が集まっている。照射下で使用されるFCC型構造材料ではフランク型転位ループに代表される積層欠陥型照射欠陥が形成し、照射硬化などの材料劣化を引き起こす。これらの照射欠陥の形成には積層欠陥エネルギー(SFE)が密接に関係していると考えられている。本研究では、代表的なHEA(Cantor合金)から放射化元素Coを除いたCoフリーHEAを対象として、耐照射性及び機械的特性を評価する目的で、Ni及びN濃度が異なる合金の積層欠陥エネルギー(SFE) の算出及び引張試験、電子線照射実験を行った。 Ni及びN濃度の異なるHEA(Cr0.8FeMnNix)をアーク溶解法により作製後、均質化熱処理(1160 ℃, 24 h)、冷間圧延(90 %)、再結晶熱処理(1000 ℃, 4 h)を施した試料に対して、公称ひずみ5 %まで引張試験を行い、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて<111>方向から拡張転位の幅を精確に測定し、当該試料の剛性率及びポアソン比を用いてSFEを算出した。さらに、各試料から微小引張試験片(SS-J1)を作製し、歪み速度1×10-3 s-1、室温で引張試験を行った。また、薄膜試料に対して電子線照射実験を行い、TEM観察により照射前後の微細組織変化を観察した。 SFEはNi濃度の増加に伴い増加する一方、N濃度の増加に伴い減少する傾向がみられた。また、引張試験の結果(Fig.1)から、高N濃度試料が高強度及び高延性を有することが示された。また、400℃における照射損傷組織から、フランク型転位ループの平均サイズ: dと数密度: Nを求めたところ、Ni濃度の増加に伴い、d及びNが減少する傾向がみられた(Fig.2)。以上より、Ni 濃度及び N 濃度の最適化により、Co フリーHEA の機械特性及び耐照射性の更なる向上が期待できると言える。
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