研究実績の概要 |
疾病や事故により損傷した骨や歯の治療に用いられる体内埋入型Ti製部材(骨折固定具,人工関節や歯科インプラントなど)では,生体骨との良好な接着性に加えて, 早期治療のために高い骨形成能が求められる.骨とTi合金の早期接着を目指して,従来のTi合金よりも骨形成能に優れるTi合金の探索や表面処理の開発が行われている.Ca,Mgは生体必須元素であり,骨の無機成分の一つである.骨などの体内に存在する元素を含んだ材料表面では,表面酸化物の存在やそれらの元素の溶出により, 骨形成が促進されることが分かっている. よって,TiとCa, Mgを合金化することで, 骨形成能に優れる新規生体用Ti合金を開発できる可能性がある. 本研究では,生体適合性Ti合金としての骨含有元素とTiの合金の開発を目的として,一元高周波(RF)マグネトロンスパッタ法を用いて,Ti-Ca,Ti-Mg合金膜の作製を試みた.任意の組成のTi-Ca,Ti-Mg合金膜を作製するため, ターゲットの構成を検討した.次に,作製した膜の評価(結晶構造,表面の化学状態)および生体適合性評価として擬似体液浸漬試験を行い,組成と諸特性との関係を調査・検討した. ターゲットの構成を工夫することにより,Ti-Ca,Ti-Mg合金膜の組成制御に成功した. Ti-Mg合金膜については,組成と格子定数の関係がベガード則に沿うことから,固溶体合金となっていることが確認できた.擬似体液浸漬試験より,Ti-Ca,Ti-Mg合金膜が純Tiよりも生体適合性に優れることがわかった.さらに,CaおよびMgの濃度が増加するほど,ハイドロキシアパタイトの析出能が向上するが,耐食性が低下することがわかった.
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