研究課題/領域番号 |
20K05131
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水野 正隆 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (50324801)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Al-Mg-Si / 第一原理計算 / 溶質クラスタ / 空孔 / Siリッチクラスタ / モンテカルロ計算 / 析出強化 |
研究実績の概要 |
時効硬化型Al合金ではAl空孔と溶質原子の相互作用が機械的特性に大きく影響する。本研究では、これまでに第一原理計算と統計的手法によりAl-Mg-Si合金における空孔の第一近接原子までを考慮した空孔-溶質原子クラスタの安定構造を解明した。2021年度は前年度得られた安定構造である空孔-Mg4Si8クラスタを基準にして、更に溶質原子が増えた場合の安定性の評価と構造変化の調査を行った。その結果、空孔-Mg4Si8クラスタの最安定構造よりも、MgとSiが層状に空孔周辺に存在する準安定層状空孔-Mg4Si8クラスタのほうが、Mg原子の配位により安定化することが明らかとなった。更に、層状空孔-Mg4Si8クラスタにMg原子が5原子配位すると、中心のMg原子が層状空孔-Mg4Si8クラスタのSi層の中心部にエネルギー障壁なしに変位することが明らかとなった。この構造はAl-Mg-Si合金の析出強化相であるβ”相のコアになっている構造であるβ”-eye構造と呼ばれる構造と一致するものであり、世界で初めて空孔-溶質クラスタからβ”-eye構造への遷移過程を明らかにした。Al-Mg-Si合金の特徴は焼付塗装時にβ”相の析出が進行する点であるが、焼付塗装前の室温放置が長くなると、β”相の析出強化が抑制されてしまう「負の効果」が問題となっている。β”-eye構造へ遷移するのは最安定の空孔-Mg4Si8クラスタではなく、準安定の層状空孔-Mg4Si8クラスタであるため、室温放置による最安定空孔-Mg4Si8クラスタの形成が、β”相による析出強化が抑制される一因であると考えられる。また、第一原理計算を利用したモンテカルロ計算により、溶質原子がランダムに分布した固溶体から層状空孔-Mg4Si8クラスタを経て、β”-eye構造への遷移も再現することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は空孔-溶質クラスタの構造解明が目的であり、本年度は前年度得られた空孔-Mg4Si8クラスタを基準にして、更に溶質原子が増えた場合にどのような構造変化を示すのかを明らかにすることが目的であった。しかし、結果として空孔-溶質クラスタの構造だけではなく、析出強化相であるβ”相のコアの構造であるβ”-eye構造への遷移過程までも明らかにすることができたとともに、室温時効により析出強化が抑制される負の効果についても推定することができ、計画以上の研究成果を得ることができた。本研究成果は論文に掲載され、論文の表紙としても採用された。
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今後の研究の推進方策 |
Al-Mg-Si合金ではMgとSiの比率やSn等の添加元素が、空孔-溶質クラスタや析出強化相の析出過程に及ぼす影響について精力的に調べられている。そこで、第一原理計算を利用したモンテカルロ計算により、Mg/Si比の影響や添加元素の影響についての検討を進めていく。更に、Al-Mg-Zn合金における空孔-溶質クラスタ形成過程の検討についても展開していく。Al-Mg-Zn合金では溶体化処理後に炉冷を行った場合も時効硬化することから、空孔を含まない溶質クラスタが重要な役割を果たしていることが予想されるため、空孔の有無による影響についても調べていく。
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