時効硬化型Al合金ではAl空孔と溶質原子の相互作用が機械的特性に大きく影響する。本研究では、これまでに第一原理計算と統計的手法によりAl-Mg-Si合金における空孔の第一近接原子までを考慮した空孔-溶質原子クラスタの安定構造および析出強化相であるβ”相のコアになっている構造であるβ”-eye構造への遷移過程を解明した。2022年度はAl-Mg-Zn合金について、第一原理計算を利用したモンテカルロ計算により、空孔-溶質原子クラスタの形成について調査を行った。まず、Al-Zn合金では空孔の有無にかかわらずZn原子間で最近接結合が形成され、球形に近いZnクラスタが形成された。空孔がある場合には、空孔周辺にZn原子が集まる傾向を示すが、空孔を含まない場合と比べるとエネルギー差は0.13 eV程度である。Al-Mg合金は空孔の有無にかかわらずMg原子間の第2近接結合が形成されL12構造を有するAl3Mgクラスタが形成され、空孔の有無によるエネルギー差はほとんど見られなかった。Al-Mg-Zn合金では空孔の有無にかかわらずMg-Znの最近接結合を主体としてクラスタが形成刺されるが、エネルギーは低下する傾向を示しており安定構造を決定するまでには至らなかった。空孔を中心とした空孔-溶質原子クラスタが形成され析出強化相への遷移するAl-Mg-Si合金と比較すると、Al-Mg-Zn合金では空孔の有無による溶質原子クラスタの形態や安定性の影響は小さく、このことがAl-Mg-Zn合金においては溶体化処理後に炉冷を行った場合も時効硬化が進行することの一因になっていると考えられる。
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