研究課題/領域番号 |
20K05138
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
土屋 文 名城大学, 理工学部, 教授 (90302215)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リチウム酸化物 / リチウムイオン電池 / リチウムイオン移動機構 / 大気型反跳粒子検出法 / リチウム蓄積量 / 液体電解質 / その場測定 / 正極/電解質界面 |
研究実績の概要 |
本研究では、大気雰囲気において液体中のリチウム濃度を約10 nmの深さ分解能で高感度に測定できる反跳粒子検出(ERD)法を用いて、リチウム(Li+)イオン電池の充放電時における電極-液体電解質界面のLi+イオン移動量をその場で測定し、Li+イオン移動機構を解明するとともに、充放電時の電極および電解質内の過渡的なLi蓄積量を定量的に評価する手法を確立することを目的とした。 アルミニウム(Al)を集電体、厚さ約107 μmのLiCoO2を正極、Liを負極、LiPF6を液体電解質としたLi+イオン電池(Al/LiCoO2|LiPF6|Li/Al)試料およびポテンショスタットによる電気化学測定を用いて作製した50%充電(SoC 50%)、100%充電(SoC 100%)、50%放電(SoC 50%)および100%放電(SoC 0%)状態のLiCoO2中のLiおよびH濃度について、令和2年度に改良したERD法によるLiおよびH濃度その場分析装置を用いて調べたところ、LiCoO2中のH濃度は、充電によるLi濃度の減少に伴い増加し、放電によるLi濃度の増加に伴い減少することがわかった。次に、第一原理計算を用いて、H導入による欠陥形成エネルギーを求めた結果、HはLiCoO2中の四面体型および八面体型格子間位置およびO空孔位置よりも、Li空孔位置付近に最も安定に占有することがわかった。従って、充電時では、LiPF6電解液に含まれるHはLiCoO2からのLi+イオンの脱離により形成されたLi空孔へ蓄積し、放電時では、LiPF6からLiCoO2へ駆動されたLi+イオンはLi空孔に蓄積されたHと置換することが判明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
大学院生および技術職員の協力を得て、令和2年度に既存の装置を改良したイオンビーム分析(反跳粒子検出(ERD)法)装置および超高真空装、令和3年度に作製したLiCoO2を正極、Liを負極、LiPF6を液体電解質としたリチウム(Li+)イオン電池(Al/LiCoO2|LiPF6|Li/Al)試料を用いて、充放電されたLi+イオン電池内のLiCoO2正極材料中のLiおよびH濃度を同時に測定することができた。さらに、第一原理計算により、LiCoO2中のHの占有位置を決定することができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度では、令和4年度と同様に令和2および3年度に作製したLi+イオン電池試料、絶縁試料ホルダーおよび大気雰囲気用イオンビーム分析(反跳粒子検出(ERD)法)装置を利用して、LiCoO2正極からLi(あるいはC)負極へ、また、Li(あるいはC)負極からLiCoO2正極への電位勾配によりLiPF6液体電解質内を駆動されて流されるLi+イオンの流量をその場で測定するとともに、電気化学測定装置を用いて計測する電流値と比較し、放電時のLi+イオン移動量と電気特性との関連性を調べる。 さらに、第一原理計算により、LiCoO2正極およびLiPF6液体電解質界面近傍のLiおよびHの蓄積占有位置およびLi+イオンの移動軌跡を調べ、大気雰囲気型ERD法によって得られた実験データを解析してLi+イオンの移動機構を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
Li+イオン電池試料作製、試料ホルダーの作製、さらに、大気雰囲気におけるLi+イオン電池試料内のLiおよびH濃度分布測定において、予算を執行すること無しに既存の装置をある程度そのままの状態で利用して研究を遂行することができた。 令和5年度では、繰り越した予算を利用して、大気雰囲気で加熱温度および湿度を変化させたときのLiCoO2正極、LiPF6およびLi+イオン伝導性ガラスセラミックス(LATP)電解質およびLi(あるいはC)負極中のLiおよびH濃度を調べるための温度および湿度調整装置を購入する予定である。 さらに、本研究において得られた研究成果を日本金属学会、イオニクス討論会、プロトンおよびイオン伝導体、エネルギー・環境に関する国内および国外の学術講演会や国際会議において口頭およびポスター発表を実施するとともに、論文を作成して学術雑誌に投稿する予定である。
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