研究実績の概要 |
本研究では、構造柔軟性に富むパイロクロア型構造を持つBi系複合酸化物としてBi2M2O7(M=Ti,Zr,Ce)(BMO)に着目し、視認性に優れる低環境負荷型黄色系顔料を開発する。①有機金属多核錯体を空気中で焼成してBMO微粒子を調製し、その結晶構造や凝集構造(形態,粒子径)を調べる。BMO微粒子の局所構造,可視光吸収特性に及ぼす異種元素の添加効果を明らかにする。③第一原理エネルギーバンド計算法および励起状態を考慮した分子軌道計算法によって実験結果の立証と発色機構の解明を行う。④得られた知見をもとに、複数種の異種元素ドープによりBMO粒子の微細構造と発色強度の改善を同時に図る。 令和2年度は、Bi2Ti2O7(BTO)の調製および物性評価,異種元素をドープしたBTOに関する第一原理バンド計算を実施した。クエン酸とエチレングリコールを用いる錯体重合法でBTO微粒子の合成を試みたが、検討した調製条件では、BTOよりもBi3Ti4O12が優先的に生成し、高純度の試料粉体を得るには至らなかった。そのため、熱処理条件(温度,時間,雰囲気)を変更し、継続して高純度な試料調製を試みる。第一原理バンド計算では、一般化密度勾配法(GGA法)の枠内で、BTOの固体電子構造を調べた。BTOのバンドギャップは2.68eVと見積もられ、実験値に近い値が得られた。価電子帯の主成分はO2p状態であるが、Bi6pやTi3dの状態と混成していた。価電子帯の頂上にはBi6s状態の局在化(不活性電子対効果)が見られた。一方、伝導帯はTi3d状態が主成分でO2p状態と混成し、Bi6p状態の寄与も認められた。TiサイトにVをドープすると、BTOのバンドギャップ中にV3d状態に起因する不純物準位が出現し、これはV-O間の電荷移動型吸収に寄与すると考えられる。このため、BTOの着色度はVドープで向上すると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
(今後の研究の推進方策) 令和3年度以降も継続して、高純度なBi2M2O7 (M = Ti, Zr, Ce)および異種元素をドープしたBi2M2O7微粒子の合成と基礎物性(結晶構造,形状特性等)のキャラクタリゼーション,光学吸収特性, 色度測定に取り組む。ドープする異種元素として、3価 (Al3+, Y3+, La3+等),4価 (Si4+, Ti4+, Zr4+等), 5価 (V5+, Nb5+, Ta5+等) を使用する。さらに、Bi2M2O7 (M = Ti, Zr, Ce) に添加された異種元素の存在状態について原子レベルでの知見を得るため、透過型電子顕微鏡観察,Raman分光測定について検討する。第一原理バンド計算では、単独および複数種の異種元素をドープしたBi2M2O7 (M = Ti, Zr, Ce)スーパーセルを構築し、原子座標を最適化し全電子計算によって固体電子構造を明らかにする。さらに、第一原理計算から予測される結果とキャラクタリゼーション結果を比較して着色度変化について考察するとともに、考察結果を試料調製条件にフィードバックし、試料の調製方法の改善を図る。 (問題点及び対応策) Bi2Ti2O7 微粒子については高純度の試料がまだ得られていないため、熱処理条件だけでなくBi2Ti2O7 → Bi3Ti4O12の相転移を抑制可能な添加元素の探索についても並行して実施する。
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