研究課題/領域番号 |
20K05143
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
近藤 啓悦 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究副主幹 (50391321)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 応力腐食割れ / 低炭素オーステナイト系ステンレス鋼 / 軽水炉炉内構造材料 / 長時間熱時効 |
研究実績の概要 |
発電用軽水炉プラントの炉内構造材料(低炭素オーステナイト系ステンレス鋼)に発生する損傷事象である応力腐食割れ(SCC)は、これまでの検証実験において、材料がプラント運転温度で長時間熱時効されることで割れの発生が促進されることが示唆されている。本事業では、この長時間熱時効後のSCC発生感受性上昇について、材料の詳細解析を実施することを軸として原因追及を進めている。令和2年度は、長時間熱時効によるSCC発生感受性上昇が顕著となった冷間加工SUS316L鋼において、導入された高密度転位組織が時効処理によって変化し、時効前の転位タングル組織が時効後にはセル構造を形成する領域が多いことを明らかとした。令和3年度は、SUS316L鋼を用いて転位組織の異なる未熱時効材(タングル組織、SCC感受性低)と長時間熱時効材(セル構造、SCC感受性高)に応力負荷した時の塑性変形組織を比較・評価するために、SCC試験(定ひずみすきま付き曲げ試験)前後の表面組織解析をSEM/ECCI観察によって実施した。その結果、未熱時効材と比較すると、長時間熱時効材は応力負荷による変形双晶の発生頻度が高いことが明らかとなった。長時間熱時効処理中に発達した転位セル構造は、材料に応力が負荷された場合、セル内転位にバック・ストレスを生じさせるため、結果として材料の稼働転位密度が低下し双晶変形によって塑性変形が補われたものと推定している。材料全体に渡って均一変形をもたらす細やかな転位すべりが抑制された長時間熱時効材では、不均一(局所的)な塑性変形が生じやすくなり、結晶粒界にひずみが集中しSCC発生感受性上昇に繋がると考えられる。今後は、塑性変形挙動だけでなく、SCC試験後に長時間熱時効材に特徴的な結晶粒界Cr酸化物形成などにも着目しSCC発生促進因子の究明を進めていく計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究事業では、低炭素オーステナイト系ステンレス鋼のSCC発生感受性に及ぼす長時間熱時効影響を評価し、得られた知見をSCC機構解明に資するため、(I)長時間熱時効材の微細組織観察、(II) 長時間熱時効材への応力負荷の影響評価、及び(III) 長時間熱時効材への応力負荷と腐食挙動への影響、の3項目を実施する計画である。令和3年度では主として項目(II)に関する評価を行うべく、長時間熱時効後のSUS316L鋼の応力応答(塑性変形微細組織)について評価を実施し、長時間熱時効処理によって転位組織(転位セル化)したSUS316Lは未熱時効材とは異なる塑性変形挙動を持ち、これがSCC発生感受性増大の原因の一つとなる可能性を示唆した。今後、異なる添加元素条件の鋼材などを用いて、同様のSCC発生感受性評価や組織発達・変形組織に及ぼす長時間熱時効影響をSCC発生促進因子及び機構解明に繋げることが可能と考える。以上のことから、当初の計画通り研究を遂行できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
長時間熱時効処理によってSUS316Lは転位組織変化(転位セル化)が起こっているが、SUS304L鋼では組織変化が起こりにくいことが明らかとなっている。この原因については、鋼中の溶質元素と転位の相互作用が影響していると考えられることから、熱時効材の3次元アトムプローブ分析を行うことでナノスケールでの空間分解能で熱時効処理前後の溶質元素分布評価を行う計画である。また、これまで14000時間の熱時効処理を実施した鋼材を用いてSCC発生感受性、微細組織変化、及び変形組織変化を評価してきているが、今後より長時間熱時効処理(50000時間)した材料で同様の評価を継続し、熱時効時間依存性についても検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
他研究機関(物質・材料研究機構)にて3次元アトムプローブによる材料解析を実施する予定であったが、令和2年度と同様に、新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から出張を取りやめたため、旅費の支出が当初計画よりも少なくなったことから次年度使用が生じた。次年度は、令和4年度分の経費と合わせて、試験片調製(加工、研磨及び保管)のための消耗品購入費用として使用する予定。
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