難加工材料であるGaNやAlNは高硬度かつ高い化学的安定性を有している、従来の化学機械研磨(CMP)技術では平坦化に多大な時間とコストがかかることが問題となっている。そこで、ウルトラファインバブル(UFB)を活用することで高い研磨速度と原子レベルの平坦性を同時に実現可能なCMP手法が着目されている。一般的に、UFBに衝撃波を与えて圧壊させることで、OHラジカルとジェット流が生成し、それらが基板に衝突することで基板の変形及び酸化が起こると考えられている。そこでこれまでは、CMPの高効率化を目指したUFBの構造を明らかにするため、反応分子動力学法を用いて内包ガスのUFBの圧壊のしやすさを検討してきた。今年度はさらに、UFBの周りの溶媒環境がUFBの安定性に与える影響を検討するため、UFB周りにCuイオンとClイオンを配置し、分子動力学シミュレーションを行った。ここでは、10 nmサイズのUFBを水溶媒中に配置し、UFBの中心間距離を変えて、UFBの形状変化を解析した。最初に、UFB周りにイオンを導入せずに、シミュレーションを行った。中心間距離が12.0 nmの場合、UFBは安定して形を保っていたが、中心間距離を11.0 nmまで縮めると、UFBが凝集する挙動が見られた。この凝集が繰り返されることでUFBが一定の大きさを超えると消滅すると考えられる。また、UFB周りにCuイオン及びClイオンを導入し、N2内包UFBの中心間距離を変えて分子動力学シミュレーションを行った。その結果、中心間距離が11.5 nmの場合でも、UFBが凝集した。これは、イオンによって水素結合の配列が乱れ、UFB壁面の圧力が変化したためと考えれらる。つまり、イオンを導入することでUFB壁面の圧力が変化し、ジェット流によって圧壊しやすくなり、CMPの高効率化に貢献すると考えられる。
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