研究課題/領域番号 |
20K05148
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 充孝 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (10547706)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 窒素鋼 / ベイナイト変態 / 高強度鋼 / エネルギー散逸 |
研究実績の概要 |
Fe-1Mn、Fe-2Mn、Fe-2Mn-1Cr合金の3種類に対して浸窒処理を行い、0.3mass%Nオーステナイトを得た後、500 ℃および400℃にて種々の時間保持することでベイナイト変態させ、ベイナイト変態におよぼすMn添加およびMn, Cr複合添加の影響を調査した。 Fe-1Mn-0.3N材(以下、1Mn材)とFe-2Mn-0.3N材(以下、2Mn材)ではBase材であるFe-0.3N材と比較してMn添加量の増加に伴い変態が遅延した。また、生成するベイネティックフェライト間にはMartensite-Austenite constituentが形成しており、MA中の窒素濃度がPara-Aγ’線まで濃化せず、長時間保持においてもγ’が析出しなかった。Mn添加によりγが熱力学的に安定化し、また、MA/BF界面での局所的なMn分配により更にγが安定化し、残留γ体積率が増加した。一方、Fe-2Mn-1Cr-0.3N材(以下、2Mn1Cr材)ではベイナイト変態が大きく遅延され、CrNの析出が優先的に生じたため、600 s保持以降で(Cr, Mn)Nの析出を伴う塊状フェライトが生成し、3600 s保持では全面がこの塊状フェライトで覆われた。 400 ℃保持におけるベイナイト変態では、2Mn材では短時間保持でB1型のBFが形成し残留γが得られたが、保持時間の増加に伴いγ’析出を伴うB2型のBFへと変化した。一方で、2Mn1Cr材では、γ’が大きく不安定化されることで析出が抑制され、長時間保持においてもB1型のBFが生成しており、2Mn材の400 ℃保持と比較して残留γ体積率が増加した。 1Mn材では短時間保持ではパラ平衡で変態が進行し、60 s以降ではMA/BF界面におけるMnの分配が確認されており、局所平衡のモードに変化が生じていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度の研究計画はCr, Mn添加高窒素オーステナイトのフェライト変態挙動を変態温度、保持時間の関係として整理し、単独・複合添加合金のフェライト・ベイナイト変態挙動をKineticsおよび結晶学の観点からまとめることとしていた。特に、高強度鋼板の創製という観点から、特にベイナイト変態挙動に注目し、Mn単独およびCrとの複合添加の影響を調査した。Mn添加材では、フェライト変態およびベイナイト変態材の作製を行い、組織観察および方位解析、X線回折測定による残留γ体積率測定を行い、微細組織発展の様子および変態率曲線の作製を完了した。また、FE-EPMAを用いたBF/MA界面窒素濃度および3DAPによる界面Mn濃度測定により、ベイナイト変態中の元素分配挙動およびそれらデータからエネルギー散逸量の定量的な解析を進めている段階である。 Mn・Cr添加材では、高温域において合金窒化物の析出が生じ、正確な相変態挙動の把握という部分では難しかった。そのため、析出の生じにくいベイナイト変態が生じる低温域において、組織観察および変態率曲線の取得、界面濃度測定は完了した。 以上のように、今年度計画していた内容に関するデータの取得はおおむね終了しており、不足部分も短期間で補完することが可能な状態となっている。 変態率曲線を基に、同程度の変態率、残留γ体積率を有する試料の熱処理条件が明らかとなっているため、これらの試料の機械特性評価を進めるための試料作製に着手しており、次年度以降引き続き相変態に対する定量的な解析および機械特性評価を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度の研究計画は前年度の不足している実験を行い、追加データを取得することおよび機械特性の評価である。令和3年度に取得した界面窒素濃度および界面Mn濃度の測定データを基に、フェライト変態およびベイナイト変態のエネルギー散逸の定量解析を行うことで、窒素鋼のフェライト変態およびベイナイト変態における合金元素添加の影響を明らかにし、炭素鋼と比較を行うことで、炭素と窒素の違いの有無およびその起源を調査する。 機械特性評価は、今年度の研究内容で重要な位置づけである。これまでに、フェライト変態材では、合金窒化物析出強化型フェライト+マルテンサイト二相組織、ベイナイト変態材では、ベイネティックフェライト+準安定オーステナイト+マルテンサイトの三相組織を有する高窒素低合金鋼が得られることを実験的に明らかにした。そこで、それぞれの合金に対して、TRIP鋼で重要な役割を果たすことが明らかとなっている準安定オーステナイト量を熱処理条件を制御することで変化させた試料を用いて比較する。これら試料に対し、一定のひずみ速度での引張試験を行い、強度-延性バランスの評価を行う。また、各相の硬さをナノインデンテーション試験にて取得し、EPMA+3DAP測定により得られている各元素の分配挙動を併せることで相分率および各相の硬さの関係として整理する。得られた強度-延性バランスを従来鋼であるFe-C系TRIP鋼と比較し、窒素オーステナイトを含む複相組織鋼の現状を正しく理解し、更なる改良点を検討する。 最終年度であるため、本研究で獲得した知見を総括し、窒素鋼のフェライト・ベイナイト変態挙動およびその挙動に及ぼす合金元素添加の影響に関する指導原理を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた出張旅費がコロナ感染症によりキャンセルとなったため。 消耗品および論文投稿料として使用する予定。
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