酸化チタンを光触媒として用いる際、紫外光でしか反応が起きないことから、屋内での利用には適さないという問題があった。これに対し、コールドスプレー法による酸化チタン成膜において、プロセスガス温度が高い条件で得られる皮膜が黄色に変色することが確認できており、この色変化は可視光を吸収する可視光応答型光触媒として適用できる可能性がある。この色変化の原因が未解明であることから調査を行った。プロセスガス温度が低い(300℃以下)条件と高い(400℃以上)の条件で酸化チタン皮膜を作製し、低温で得られる白色皮膜と高温で得られる黄色皮膜での比較を行った。各皮膜の紫外可視分光光度計による評価からバンドギャップを測定したところ、黄色皮膜は低いバンドギャップ値を示し、可視光応答の可能性を示した。酸化チタン光触媒を可視光応答型にする場合、窒素ドープ、金属ナノ粒子添加、酸素欠損形成などの手法があるが、今回は金属粒子の添加を行っていないため、窒素ドープと酸素欠損に着目して色変化の原因調査を行った。コールドスプレー法では高温高圧の窒素ガスをプロセスガスとして用いているが、通常は不活性ガスである窒素が皮膜中にドープされるとは考えにくい。実際にXPSを用いて白色と黄色の酸化チタン皮膜の評価を行ったところ、いずれも窒素に起因するピークは見られず、また他の不純物による違いも見られなかった。一方で、XPSによる酸素欠損に関する分析結果からも大きな違いは見られず、酸素欠損を示す三価のチタンピークを確認することもできなかった。ただし、黄色皮膜を大気雰囲気の電気炉で加熱することで白色になることが確認できた。これは酸素欠損が過熱によって再度酸化されて白色に戻った と考えられ、XPSでは確認できなかったが、酸素欠損が色変化の大きな要因であると考えられる。
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