研究課題/領域番号 |
20K05153
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
飯塚 高志 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 教授 (60335312)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | テーラードブランク / 異種金属接合 / レーザ接合 / 成形性 / 耐電界腐食性 |
研究実績の概要 |
「①接合条件と強度および微細組織の関係の解明」については,昨年度に引き続きSPCCとA1050P-Oについてレーザ出力およびレーザ照射位置x(接触界面からのオフセット位置)に関して,接合条件と接合強度,および微細組織の状態の関係に関する調査を行った.結果として,接合速度が600mm/min,レーザ出力600Wの時にはオフセット位置x=0.24mmで約70MPaの最大接合強度が得られることが確認できた.また,アルミニウム側で30MPa (x = 0.02mm)および50MPa(x = 0.10mm),鋼側で 30MPa (x = 0.48mm)になるように接合材を作製し,SEM観察とEDS分析を実施した.結果として,脆性の強いアルミニウムリッチな金属間化合物層について,アルミニウム側の強度が低い条件では金属間化合物層が接合界面の凹形状になっている箇所で局部的に厚くなっており,強度上昇につれて一様な厚さとなっていたことが確認できた.一方,鋼側で強度が低下する条件では,明らかな未接合部が存在し,原子拡散が不十分であったことが原因と考えられる.また,レーザ照射位置が接触界面に近づくにつれて鋼側へのアルミニウムの拡散が多くなり,広範囲で鉄リッチな金属間化合物が形成されていた.強度が最も高くなる条件ではこのような鉄リッチな金属間化合物層が薄くなり,代わりにアルミニウムが固溶した組織へと変化していることが確認できた.「②接合板の接合部の変形能と成形性の評価」に関しては,成形性試験時のひずみ測定システムの設計を行ったほか,成形性試験を行う接合条件について検討した.「③金属間化合物層と電界腐食性の関係の解明」については,A1050P-O/SPCCの系を対象に接合強度,微細組織および電界腐食性の関係を調査する試験条件を決定し,順次複合サイクル試験の実施を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R3年度は,コロナ禍および研究室の移転の影響からA1050P-O/SPCCの系を主な対象として実験のスケジュールを適宜変更しながら研究を進め,結果的におおむね順調であったと自己評価している.特に昨年度に引き続いて「①接合条件と強度および微細組織の関係の解明」に関して集中的に実験を行うことで,接合条件,接合強度および微細組織の関係について多くの部分を明らかにすることができた.この成果を基盤として「②接合板の接合部の変形能と成形性の評価」および「③金属間化合物層と電界腐食性の関係の解明」の準備を行い,テーマ③については順次実験を進めることができている.また,テーマ②については,DIC(Digital Image Correlation)法によるひずみ測定システムの構築を行うこととし,測定方法の検討とシステムの構築を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
R4年度は引き続きA1050P-O/SPCCの系を主な対象としてテーマ②およびテーマ③の実験を中心に研究を行う.また,テーマ①に関しては接合条件,接合強度および微細組織の関係を引き続き調査し,最終的に相関図を仕上げる.テーマ②に関しては,接合強度と成形性の関係の調査とともに,構築したひずみ測定システムを用いて主に深絞り,張出し,穴広げにおける変形挙動に関する調査も行う.これら主ひずみ方向を変えた成形性試験による破断状態の変化についてはEDS分析などを利用して明らかにする予定である.「③金属間化合物層と電界腐食性の関係の解明」については,特に鉄リッチな金属間化合物層の存在が電食性に与える影響を調査するために,接合条件を変えて得られた接合材に関する複合サイクル試験を行い,接合強度,微細組織および電食性の関係の相関を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室の移転および使用を予定していた装置の破損等があり,一部使用を予定していた装置が使用できなくなったため,想定していたスケジュールを変更して研究を実施した.まず,既存のエリクセン試験機(張出し成形性試験機)が破損してしまったため,経費の一部をエリクセン試験機の購入に充てる必要が生じた.加えて移転によって一部装置の使用ができなくなったため,主に「②接合板の接合部の変形能と成形性の評価」の実施が遅れることとなった.ただし,代わりに「①接合条件と強度および微細組織の関係の解明」についての進捗を進めることができた.また,テーマ②については当初ひずみゲージ等による変形挙動の測定を予定していたが,より効率的と考えられるDICシステムを用いた測定に変更することとし,そのシステム構築に時間を費やすこととなった.そのため,本年度に予定していたひずみゲージ等消耗品に関する経費を次年度のエリクセン試験機の準備とDICシステムの構築のための経費に用いることとしたため次年度使用額が生じることとなった.想定していなかったトラブルが生じたものの,DICシステムの構築によって当初の予定より効率的な測定とできるようになると考えられるため,結果的に予定通りの実験を進めることができるようになると考えている.
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