研究課題/領域番号 |
20K05156
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
田中 秀和 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (70325041)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 人工亜鉛さび / 塩害環境 / 大気腐食 / 亜鉛めっき鋼板 / 合金金属 / 保護性さび粒子層 / 形態制御 / 分子吸着 |
研究実績の概要 |
本課題では,人工さび実験により塩害地域での亜鉛めっき鋼板の腐食機構および亜鉛合金めっき鋼板の耐食性発現機構を解明し,さらに塩害地域で高い耐食性を発揮する新たなレアメタルフリー亜鉛合金めっき鋼板を開発することを目的に,以下の研究を行っている。 ① 塩害地域での亜鉛めっき鋼板の腐食機構および亜鉛合金めっき鋼板の高耐食性発現機構,合金金属の働きを詳細に解明するため,人工さび実験により,塩化物イオン存在下,亜鉛さびの主成分である塩基性亜鉛塩(BZS)さび粒子を合成し,その生成温度やpH,構造,組成,粒子形態を解明する。さらに,BZSさび粒子の生成,構造,形態に及ぼす耐食性発現に有効とされている合金金属イオンの詳細な働きを明らかにする。 ② 塩害地域でも保護性亜鉛さび粒子層の形成を促進する合金金属や元素を探求し,レアメタルフリー高耐食性亜鉛めっき鋼板を開発する。 令和2年度は上記①を中心に研究を行った。塩害地域でのBZSさび粒子の生成機構を解明するため,塩基性炭酸亜鉛(Zn5(OH)6(CO3)2:HZ)を添加したZnCl2水溶液を,種々の温度やpHで処理した。酸性~中性域ではHZはほぼ消失し,塩基性塩化亜鉛(Zn5(OH)8Cl2:ZHC)が形成した。よって,HZはZnCl2溶液中でZHCに転移するとわかった。ZHCへの転移量は,pHやHZ添加量,処理温度とともに増加した。さらに,ZnCl2水溶液にHZ粒子を加え,乾燥(50℃,18時間)-湿潤(20℃,6時間)サイクルを繰り返した。1サイクルではHZの大部分はZHCに転移し,2サイクル以降ではZHCのみになった。一方,ZHCの結晶性および粒子サイズはサイクルとともに増加した。 以上より、塩害地域での亜鉛めっき鋼板の大気腐食では,初期さびであるHZは乾湿繰り返しの初期段階でZHCさび粒子に転移することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度の研究により人工さび実験により,腐食初期に生成する亜鉛さびである塩基性炭酸亜鉛(HZ)は,高塩化物イオン濃度下で塩基性塩化亜鉛(ZHC)に転移することが明らかになった。これは,亜鉛めっき鋼板で生成するZHCさび粒子の生成機構の解明に非常に有用な結果といえる。したがって,耐食性を有する緻密な保護性ZHCび粒子層の形成を促進するためには,HZの組成,結晶性,粒子形態の制御が重要であることが示唆され,制御因子が明らかになりつつあることから,研究目的の達成度を「おおむね順調に進展している。」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進計画では,令和2年度の研究を継続するとともに,下記の課題について検討する。 ① HZあるいはZHCさび粒子の生成,構造,形態に及ぼす耐食性発現に有効とされている合金金属イオン(Ni(II), Fe(III), Co(II), Mg(II), Al(III)など)の詳細な働きを明らかにする。 ② 塩害地域でも保護性亜鉛さび粒子層の形成を促進する合金金属や元素を探求し,レアメタルフリー高耐食性亜鉛めっき鋼板を開発する。
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