研究課題/領域番号 |
20K05157
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
今林 慎一郎 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (50251757)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水和型酸化イリジウム / 電析法 / 電析速度 / OER活性 / OER耐性 |
研究実績の概要 |
酸化イリジウムは酸素発生反応(OER)の良い触媒であるため、電解用陽極、水電解による水素製造などへの利用が期待される。本研究は優れたOER活性と耐性を兼備する水和型酸化イリジウム(IrOx)膜を厚膜形成にも十分な速度で形成できる電析方法の開発を目標としている。2021年度は3課題について、下記の成果が得られた。 〔課題1〕 OER活性と耐性を兼備したIrOx電析方法の確立: 電析液組成と電析膜の熱処理条件を液安定性、電析特性、OER活性と耐性のなどの実用的な点から最適化している。新規電析液は建浴後数ヶ月で電析速度の低下が始まる液安定性の問題があった。シュウ酸をIrCl4濃度の1/5程度添加することで電析特性(速度、電流効率)を大きく損なわずに速度低下が始まるまでの期間を延長できることがわかった。また、電析速度低下後も、定電流から電位サイクルに電析モードを変えることで、OER耐性のあるIrOx膜を形成できることがわかった。 〔課題2〕 新規電析方法の基礎的解析と理解: 電析の活性種や反応、水和型IrOxのOER耐性の支配因子など電析方法の学術的、基礎的な理解を進めている。電析速度が低下(劣化)した電析液では副反応(2)の影響が低減することから、その原因物質濃度が電析反応物質と同様に減少することが示唆された。OER耐性試験中のIrOx膜の膜厚および面積が時間と共に減少する(膜が薄く、小さくなる)ことをわかった。これら数値の減少の程度はOER耐性の優劣と直接な相関はないが、耐性が劣る膜ではある時点で大きく減少する現象が観測された。 〔課題3〕 新規電析方法で形成したIrOxと焼成法で形成したIrO2の比較: 新規電析方法で形成したIrOxのOER電位は電流密度0~1 A/cm2において焼成法で形成したIrO2よりも0.2~0.3 V程度低く、OER活性が優れていることを確認した
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
〔課題1〕 おおむね順調に進展している。電析液組成の最適化については、液寿命と電析特性の両立の点からシュウ酸を添加するすることにし、最適な液組成を検討している。電析膜の熱処理条件については、温度400, 500℃、時間10, 30分という比較的広い範囲で良好なOER耐性が得られることを明らかにしている。 〔課題2〕 やや遅れている。電析液組成に依存した定電流電析の電位とファラデー効率の変化から、電析と同じ電位で起こる酸化反応(1)と、電析電位よりも低電位で起こる酸化反応(2)の2つの副反応が存在することを明らかにした。酸化反応(1)は電析されたIrOx上で起こるOERであり、高電流密度の電析において電流効率を左右することがわかった。酸化反応(2)は低電流密度で新規液から電析する場合に電流効率を低下させるが、その原因物質は電析液のIr源であるIrCl4から生じていることを支持する結果が2021年度の検討からも得られたが、具体的な物質はまだ明らかになっていない。OER耐性が大きく劣化する際に、IrOx膜の膜厚および面積が通常の減少よりも大きくなることをわかったが、その原因については明らかになっていない。 〔課題3〕 やや遅れている。OERの電流密度0-1 A/cm2の範囲で、本研究の電析方法で形成したIrOxのOER電位が焼成法で形成したIrO2よりも0.2 V程度低く、OER活性が優れていることを明らかにした。新規電析方法を用いて作製した空孔率が異なるIrOx/多孔チタン電極の電気二重層容量から、その実効表面積がIrOx/平板Ti電極の80~100倍であることがわかった。しかし、実効表面積に見合ったOER電流が多孔電極で得られていない。OERは気体発生反応であり、電流値が小さい理由が発生したO2気泡の影響であるか検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は本研究課題の最終年度にあたるため、第1に学会発表や論文投稿を中心に研究成果発表に注力する。研究は当初の計画に沿って実施し、検討事項の概要を以下に記す。 〔課題1〕 液寿命(電析速度が初期値から20%以上低下するまでの期間)と電析特性(速度、電流効率)の点からシュウ酸を添加した電析液の最適組成を検討する。 〔課題2〕 引き続き、電析の副反応、特に酸化反応(2)に関する基礎検討を続ける共に、電析の主反応に関する検討に注力する。酸化反応(2)については、回転電極を用いたクロノポテンショメトリーによって、電流密度に依存して酸化反応と電析反応の割合がどのように変化するかを測定する。酸化反応(2)が起こる電位から反応の特定を試みる。OER耐性の支配因子の解析に必要なデータとして、OER耐性試験中にIrOx膜がどのように劣化(膜の溶出 or 剥離)するかを電析条件が異なるIrOx膜について測定し、OER耐性、膜の劣化と電析条件の相関を掴む。また、回転リングディスク電極を使用した溶出物の分析を試みる。さらに、2020年度の検討からわかったOER耐性の優劣とIrOx膜のOER電位の相関について検討する。 〔課題3〕 酸性領域のみならず中性や塩基性領域でも、新規電析方法で形成したIrOxのOER活性や耐性を焼成法で形成したIrO2と比較する。また、多孔IrOx 電極のOER特性に対する気泡発生の影響を半定量的に評価すると同時に、電極表面構造や溶液フローなどによってその影響を低減できるかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度の研究では、イリジウム化合物など試薬類やTi板、多孔Tiなどの電析担体を使用したが、これらは前年度に購入したものや過去の研究課題で購入したもので賄うことが出来たため、比較的多額の研究費を2022年度に繰り越すことになった。 近年、イリジウム化合物やTi製品を中心に研究遂行に必要な物品の価格が高騰している。2022年度は回転電極を用いた解析をOER活性や耐性の評価や電析反応の検討で実施する予定であり、そのための物品、機器類が必要になる。これらに繰り越した研究費を有効に使用する予定である。
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