研究課題/領域番号 |
20K05158
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
太田 高裕 東海大学, 工学部, 准教授 (00759160)
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研究分担者 |
麻 寧緒 大阪大学, 接合科学研究所, 教授 (10263328)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ショットピーニング / 残留応力 / 粒子画像流速測定 / ショット速度 / アルミニウム合金 / 有限要素解析 / オーステナイト系ステンレス鋼 |
研究実績の概要 |
ショットピーニングはショットが高速で金属に衝突することで金属表面に圧縮残留応力を与える加工法である.ショットピーニングは簡便に疲労強度を向上できるため,航空機・自動車をはじめ多くの製品の部品に適用される.本研究では,ショット速度の計測に高速ビデオカメラと粒子画像流速測定(PIV)を適用し,ショット径・ショット材質のショット速度に及ぼす影響を定量的な関係式を明らかにする.また,ショット径,ショット材質,ショット速度が残留応力分布に及ぼす影響を定量的に評価する. 2021年度は,粒径3種類の低合金鋼製ショット,および粒径3種類のセラミック(ジルコン)製ショットについて,高速度カメラとPIVを用いて,ノズルから約100mmの間のショット速度変化を計測した.ショット速度はエア圧の増加に伴って増加した.同じエア圧・材質では,粒径が小さいほどショット速度は速くなる.同じ程度の粒径においては,密度の低いジルコン製ショットでは密度の高い低合金鋼製ショットに比べて,ショット速度が速い.以上のように,ショット粒径・ショット材質,エア圧のショット速度に及ぼす影響を定量的に把握できた. 本年度は低合金鋼ショットとジルコンショットのショット径とショット速度を変化させて,アルミニウム合金(A5052)にショットピーニングを実施した.板厚内の残留応力分布をX線回折法で計測した.残留応力分布を近似式で示し,式の係数をショット径とショット速度の関数で示すことを提案した.実験結果をもとに,近似式の係数を決定し,低合金鋼製ショットとジルコンショットの両方で,実験結果を模擬できることを確認した.また,係数を決定したショットとは異なるジルコンショット径を用いた実験を行い,この条件でも実験結果を模擬できることを検証し,近似式の妥当性を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の2021年度の計画では,1)低合金鋼ショットおよびジルコンショットを対象にショット径がショット速度に与える影響を調査,2)ショット速度の残留応力分布に及ぼす影響の有限要素解析による調査(アルミニウム合金),3)残留応力の計測(アルミニウム合金),4)オーステナイト系ステンレス鋼へのショットピーニングでの加工誘起マルテンサイトの影響,が実施内容であった.本年度の実施状況は以下のとおりである. 1)高速度カメラと粒子画像流速測定(PIV)を用いて,3種類の粒径の低合金鋼製ショットと3種類の粒径のジルコンショットについて,0.2~0.6MPaのエア圧において,ショット速度を計測した.この結果,ショット粒径・ショット材質,エア圧のショット速度に及ぼす影響を定量的に把握できた. 2)有限要素法による残留応力の解析は前年度に実施済のため,今年度は主に実験による評価を行った. 3)アルミニウム合金に対して,低合金鋼製ショットおよびジルコンショットの場合について, 電解研磨による逐次除去とX線回折法を用いて,板厚内の残留応力分布を計測した.計測した残留応力分布を近似式σ(z)= A×exp[(-2(z-C )^2)/D^2 ]+Bで示した.zは表面からの深さ,A, B, C, Dは係数で,ショット径とショット速度の関数で表す.この近似式を用いることで,板厚内の残留応力分布へのショット径とショット速度の影響を定量的に表すことができた. 4)SUS304について,ショット速度と加工誘起マルテンサイト量の関係を調査した.ショットピーニングでは加工ひずみにたいして,マルテンサイトが発生しにくい傾向にあり,応力3軸度の影響があることが示唆された. 以上のように,当初の計画通りに進捗している.
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今後の研究の推進方策 |
計画では2022年度に,1)ショット材質の残留応力分布への影響,2)オーステナイト系ステンレス鋼にショットピーニングを行った場合の加工誘起マルテンサイトを考慮した数値解析手法の検討,3)オーステナイト系ステンレス鋼におけるショットピーニング後の残留応力の計測,4)残留応力へのショット径・材質の影響の検討,を計画している. 1)4)ショット材質の残留応力分布への影響では,2021年度までに低合金鋼ショットとジルコンショットにおいて,アルミニウム合金の残留応力分布へのショット速度・ショット径の影響を調べ,数式化を完了した. 2022年度は論文を投稿する. 2)オーステナイト系ステンレス鋼にショットピーニングを行った場合の数値解析手法の検討については, 2021年度に共同研究者(大阪大学・麻 教授)において,解析のサブルーチンを作成済である.2022年度は,大球の押し込み試験の数値解析を行い,実験と比較する. また,基礎データとして材料試験(ひずみとマルテンサイト量の関係の把握)を行う. 3)オーステナイト系ステンレス鋼におけるショットピーニング後の残留応力の計測については,試験体を作成し,ショットピーニングを行い,残留応力を計測する.この結果と数値解析の結果を比較して,数値解析結果の妥当性を確認する.
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次年度使用額が生じた理由 |
1)Covid-19の感染拡大により,当初予定していた学会が中止となった.また,開催された国内学会もオンラインとなり,旅費が発生しなかった.2022年度より,学会の通常開催となるので,旅費が発生する. 2)高速カメラのレンタルについて,2020年度に実施したレンタルで,当初予定の計測を終了してたので,2021年度は実施しなかった.2022年度にレンタルして,追加の条件でのショット速度の計測を計画している.
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