研究課題/領域番号 |
20K05162
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
神谷 修 秋田大学, 理工学研究科, 名誉教授 (60113891)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ダイヤモンド基板切削加工 / 固定砥粒型ソーワイヤ / ダイヤモンド砥粒 / 窒化ボロン砥粒 / ダイヤモンド窒化ボロン複合砥粒 / ダイヤモンド単結晶の加工 / 形状制御加工 / 長寿命ソーワイヤ |
研究実績の概要 |
厚さ1㎜のダイヤモンド基板を2㎜以上の距離で切削加工することが出来た。長寿命で高強度の固定砥粒型のソーワイヤの開発を行い、ダイヤモンド単結晶基板をジグザグに制御切削加工した。また、ダイヤモンドの加工条件は、従来の湿式ではなく乾式が適することを見出した。さらに、ダイヤモンドの切削機構は、砥粒先端による引っかきや掘り起しではなく、接触表面の摩耗現象であることを提案した。 ソーワイヤの基本構造は、高強度心線に対して、高融点のろうで砥粒を固定するものである。直径80μmのタングステン線に、大気中にて水性ゲルで直径10μmのダイヤモンド砥粒、ろう材および水素化チタンを仮固定して、900℃の高温高真空炉内で5m/minの速度で連続的に製造したものである。本製造装置は、この研究の特色である。製造したソーワイヤを、8mの長さでセットして、厚さ1mmの単結晶ダイヤモンド基板を[100]方向に、速度150m/minで繰返し往復切削加工を行う。その結果、全長1500μmで500μm毎にジグザグに制御した切削加工を行うことが出来た。また、切削速度はワイヤーの走行距離1km当たり、ダイヤモンドの加工量が1μm程度であり、8mのソーワイヤを1度も交換することなく、3000㎞以上走行させることにより基板をジグザグに2㎜の長さ以上に加工することが可能となった。また、使用後のソーワイヤを観察するとダイヤモンド砥粒の先端は摩耗しているが、切削速度は一定の速度を保ち低下していない。このことから、切削機構は通常の加工に見られる工具先端による局所的な引っ掻き掘り起しではなく、面同士の相対滑りによる摩耗機構であると判断された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでソーワイヤによるダイヤモンド切削加工は、最大で800μmであったが、令和3年度は2㎜以上の切削をすることが出来た。当研究室で製作した固定砥粒型ソーワイヤの寿命は、これまで数百kmの走行距離だが、本年度は3000㎞以上の走行寿命に改善され、また、従来の加工条件は、水冷などの湿式環境であったが、ダイヤモンド単結晶の加工においては乾式の環境が有利であることを見出した点は高く評価できる。また、ダイヤモンドの切削機構が、発熱しやすい引っ掻きではなく、ダイヤモンド同士の面滑りによる表面の化学反応であるとした点は、新規の切削機構の提唱である。これまで、単結晶ダイヤモンドの切断加工は劈開面に沿って割るか遊離砥粒と回転ディスクにより行っていたが、本研究で示した固定砥粒型ソーワイヤによる新しい切削方法により、平面以外の曲面やジグザクなどの任意の面に沿って制御しながらダイヤモンドを切削できることを示した。 また、ろう材として用いたCu-Sn15%合金は、強度がせん断応力で800MPa程度と高いので廃炉工程のデブリスの切断にも十分に使用できるものである。従って、今年度の結果は、ダイヤモンドの精密制御切削から廃炉工程のデブリス切断まで幅広く使用できる。また、本研究経費によりダイヤモンド工具の製造から切断試験装置まで整備することが出来たことは、工具開発の推進力となる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでコロナ禍により野外におけるウルツ鉱型窒化硼素(wBN)の爆発合成が出来なかったので、令和4年度は爆発合成を実施して目標とするwBNを得る。ダイヤモンド砥粒とwBNを混合した複合砥粒工具としての評価を行う。これまで、硼素・炭素・窒素複合砥粒として、実現可能な組み合わせとして、爆発合成した多結晶ダイヤモンドとwBNを混合して用いる計画である。 これまで、主に単結晶ダイヤモンド砥粒を用いてきたのであるが、多結晶ダイヤモンドを用いることにより、固定砥粒型ソーワイヤの工具寿命をこれまでよりさらに改良することが出来る可能性がある。また、wBNを混合することにより、ダイヤモンド砥粒単独よりも、工具性能を改善できると期待される。また、六方晶窒化硼素(hBN)を出発物質として爆発合成すると、wBNだけでなく立方晶窒化硼素(cBN)との混合になるのであるが、それらの混合率が工具特性にどのような影響を与えるかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の供試材である、硼素、炭素、窒素複合六方結晶系の物質を爆発合成するには、福島県白河市の日本工機にて野外での実験が必要である。しかし、コロナ禍により物質を飛散させる爆発合成実験が許可にならなかったことと、秋田県から福島県への出張が難しいために合成実験が限られたために、次年度使用額が生じた。爆発合成実験は、コロナ禍の直前に1回実施ており、その試料を用いて実験を進めたが、追加試料が必要であった。 爆発合成のための素材であるhBN粉末を、鉄管に圧入して準備しているので、令和4年度ではコロナ禍が安定するタイミングで、爆発合成実験をして新たなwBNを入手する。その後、既存設備を用いてソーワイヤを製作して、硬質素材の切削試験を実施する。硬質素材としては、これまでと同様の4×4×1㎜のダイヤモンド単結晶を用いて推進する。
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