研究課題/領域番号 |
20K05164
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
村石 信二 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (70345156)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 転位動力学 / マイクロメカニクス / アルミニウム合金 / 析出強化 / 転位強化 / マイクロピラー / ナノインデンテーション |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、析出相と転位の幾何学的な相互作用を力学試験と数値シミュレーションの両面から解析し、析出強化量と析出物形状の関係を見積ることである。 2020年度は、現有の微小硬さ試験機をマイクロピラー圧縮試験に改修し、Al-Zn-Mg析出強化型合金等のマイクロピラー単結晶の作成と圧縮試験に成功している。代表的な結晶方位の応力ひずみ応答を調査した結果、固溶強化が見込まれる溶体化処理材では、変形応力の結晶方位依存性は分解せん断応力で整理できること、また析出強化されたピーク時効材では、分解せん断応力値にバラつきが見られ結晶方位の影響を受けることが明らかとなった。ピーク時効材で分解せん断応力にバラつきが生じる理由として、転位と析出物の相互作用において交差すべりが誘起されることを示唆しており、複数のすべり系が変形の初期から働いた結果と考えられる。更に詳細な議論を行う為に、析出バリアントを配列させた応力時効材の力学試験の調査はAl-Zn-Mg,Al-Mg-Si,Al-Cu-Mg合金で並行して調査を進めている。これら析出バリアントの形状と配置が析出強化に及ぼす影響についての系統的な実験結果は、2021年度にその多くが達成される予定である。 転位動力学による析出バリアントと転位の相互作用のシミュレーション予測では、代表的な析出物形状である球状、針状、板状の析出物について解析が進んでおり、析出物周囲の転位運動が析出バリアントの幾何学的配置に強く影響を受けることが明白となった。特に転位運動に必要な外力と転位の掃引面積から応力-ひずみ線図を予測することに成功しており、いづれの析出形状・配置が析出強化に有効であるかの知見が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロピラー圧縮試験機によるAl-Zn-Mg合金マイクロピラーの応力ひずみ線図は、分解せん断応力の観点で単結晶のデータとして妥当であり、また同合金の固溶体強化では変形応力の結晶方位依存性は分解せん断応力で整理されるのに対して、析出強化では分解せん断応力に差が生じるといった新たな知見が得られている。これは、析出物が転位運動の障害物として働くことで単一すべりに影響を与え、複数のすべり系が変形の初期から働きやすい為と考えられる。 析出物配列効果の検証実験は、Al-Cu合金単結晶における過去の申請者の研究で明らかとなっているものの、Al-Mg-Si合金、Al-Zn-Mg合金の析出相配列効果の検証はTEMの故障などが影響して進捗がやや遅れている。析出相を効果的に配列制御する為には応力成分と結晶方位の関係が最も重要であり、Al-Mg-Si合金の応力時効材では{001}に針状に生成するβ“相の析出は確認しているが、配列効果を確認するまでには至っていない。これは応力負荷方向と平行な[001]方位の結晶粒がTEMで観察できていないことが理由であるが、供試材の結晶配向性に原因したものであり実験的工夫で充分に解決できる問題である。またAl-Cu-Mg合金の応力時効材では、硬さの値が応力値と負荷方向に依存して変化することが明らかとなっており、マイクロピラー単結晶の試験結果が急がれる。 転位動力学シミュレーションでは、球状、針状、板状のミスフィット析出物の幾何学形状と配置の違いが転位運動と応力ひずみ線図に大きく影響する結果が得られている。これら析出強化における幾何学的効果は本研究の転位動力学シミュレーションで初めて明らかとしたものであり、ミスフィット析出物の局所の内部応力場に従って転位が引力型ならびに斥力型の相互作用を受けることに起因している。これら結果は学術誌に投稿査読中である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究推進方策の一つとして、2020年度で明らかとしたAl-Zn-Mg合金マイクロピラー単結晶の分解せん断応力の結晶方位依存性を、他の時効析出型合金であるAl-Mg-Si合金、Al-Cu-Mg合金についても調査を進め、より包括的な析出強化型合金単結晶の析出強化の基礎的知見を得る。 各種アルミニウム合金の応力時効による析出相配列効果の検証は本研究で明らかにする重要な課題である。電解研磨法によりTEM膜を作成・観察する現手法は、応力時効材の観察に適した結晶方位が集合組織の影響を受けるなど、応力効果の検証に時間を要し非効率であったと自己分析している。応力時効材をマイクロピラー試験することを考慮すると、予めEBSD観察で集合組織を同定し、配列効果に最適な結晶粒を抽出してTEM観察とマイクロピラー試験することで、実験工程が簡略化され今後の研究進捗のスピードアップにつながると考えている。 転位動力学シミュレーションでは、転位が単一の析出物を乗越える際の転位運動とこれに対応する応力ひずみ線図を2020年度に明らかとした。転位の熱活性化運動のミクロな観点では、ピン止め点となる析出物単体と転位の相互作用が非常に重要であるのに対して、実験データはこれら熱活性化運動の巨視的平均と考えられ、多体間相互作用シミュレーションによって得た応力ひずみ線図と実験的データを比較すべきである。また、転位自身もピン止め点と成り得ることから、オロワン応力の張り出し半径を変化させた多体間相互作用モデルでシミュレーションを遂行し、析出強化と転位強化の相乗効果について議論を行う。
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