研究課題/領域番号 |
20K05166
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
田中 繁一 静岡大学, 工学部, 教授 (60197423)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | インクリメンタルフォーミング / 残留応力 / 板プレス成形 / CNC成形 |
研究実績の概要 |
インクリメンタルフォーミングは,工具をあるパスに沿って動かして,目的とする曲面形状をその包絡面として得る新しいCNC塑性加工技術である.本プロセスでは,従来の巨大なプレス機や高価な金型を用いないフレキシブル成形技術である.しかし,このプロセスで得られるほとんどの成形品には過大な残留応力が蓄積しており,クランプ解放やトリミング後に激しい負のスプリングバックが発生する. 本年度は,部分モデルを用いる数値シミュレーションを実施して,ゆがみをもたらす残留応力の生成メカニズムを明らかにした.その結果によれば,工具進行方向の残留応力の板厚方向分布の形態は従来の研究と同様に工具下の材料の曲げ・曲げ戻し・直線化により形成される.一方,子午線方向の残留応力では,素材クランプ位置端近傍での材料の曲げによる応力分布が起因となって,工具接触側が引張りとなる応力分布が材料中心へ向かって成長することを新たに明らかにした. さらに,ダブルサイド・インクリメンタルフォーミングの2工具の相対配置を系統的に変更してそれが残留応力に及ぼす影響を考察した.この方式では,独立したマスターおよびスレーブの2つの工具を素板の両側に配置して成形を行うが,対称対向あるいは若干ずらすことにより素材に曲げ・曲げ戻しの負荷を複雑に素材に導入できる.さらに,広範囲に配置制御できれば,たわみあるいはだれ変形を抑制しながら成形を行うことができる.今回の考察では,適切な工具系の縦揺れにより,工具パス方向の残留モーメントをほぼ0にすることができる.また,工具間隙は,初期板厚程度にした場合に工具パス方向の残留モーメントが小さくなる.さらに,工具系の横揺れにより,クリアランス部等のたわみ変形を抑制できることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ感染症に伴う自粛等により実験的な考察の準備等は開始が遅れたが,その期間に系統的な数値シミュレーションを行ったことにより,ゆがみをもたらす残留応力の生成メカニズムに対する新しい知見を得ることができた.その結果によれば,子午線方向の残留応力では,素材クランプ位置端近傍での材料の曲げによる応力分布が起因となって,工具接触側が引張りとなる応力分布が材料中心へ向かって成長することを新たに明らかにした. 加えて,ダブルサイド・インクリメンタルフォーミングの2工具の相対配置を系統的に変更してそれが残留応力に及ぼす影響を考察した.その結果,適切な工具系の縦揺れにより,工具パス方向の残留モーメントをほぼ0にすることができる.また,工具間隙は,初期板厚程度にした場合に工具パス方向の残留モーメントが小さくなる.さらに,工具系の横揺れにより,クリアランス部等のたわみ変形を抑制できることを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
数値シミュレーションで確認した残留曲げモーメントが小さくなる2工具配置を実現するための成形機の構造と仕様を決め,関連する装置の改造と設計を進める. その後,計算結果に対応する実験データを得て,残留曲げモーメント低減への効果を検討する.加えて,成形実験とシミュレーションの結果を比較して,計算モデルの高精度化を考察する.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験装置の準備等に係わる研究作業の開始が新型コロナ感染拡大に対する自粛のために遅れ,それに関連する予算の一部を次年度に繰り越すことになった.繰り越し分は翌年度分として請求した助成金と合わせて,実験的考察の準備と実施のための経費として使用する.
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