インクリメンタルフォーミングは,従来の巨大なプレス機や高価な金型を用いないフレキシブル成形技術である.しかし,このプロセスで得られるほとんどの成形品内には過大な残留応力が存在し,クランプ解放や不要部のトリミング後に激しい負のスプリングバックが発生する.本研究では,部分モデルとスローイング法により推定した材料モデルを用いる数値シミュレーションを提案して,ゆがみをもたらす残留応力の生成メカニズムを考察した. その結果によれば,工具進行方向の残留応力の板厚方向分布の形態は従来の研究と同様に工具下の材料の曲げ・曲げ戻し・直線化により形成される.また,薄板に対する計測精度を独自に改善したASTMのHole-Drilling法を用いてこの残留応力の板厚方向分布を計測した結果は計算結果が正しいことを裏付けている.一方,子午線方向の残留応力の一部は,素材クランプ位置端近傍での材料の曲げによる応力分布が起因となって,工具接触側が引張りとなる応力分布が材料中心へ向かって成長する現象を明らかにした.また,ダブルサイド・インクリメンタルフォーミングの2工具の相対配置を系統的に変更してそれが残留応力に及ぼす影響を考察した.この方式では,独立したマスターおよびスレーブの2つの工具を素板の両側に配置して成形を行うが,対称対向配置あるいはそれに対して偏差を与えることにより素材に曲げ・曲げ戻しの負荷を複雑に素材に導入できる.加えて,広範囲に配置制御できれば,たわみあるいはだれ変形を抑制しながら成形を行うことができる.系統的な考察の結果,以下のことを明らかにした.適切な工具系のピッチ角により工具パス方向の残留モーメントがほぼ0になる.また,工具間ギャップは,初期板厚程度にした場合に工具パス方向の残留モーメントが小さくなる.さらに,工具系のロール操作により,クリアランス部等のたわみ変形を抑制できる.
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