研究課題/領域番号 |
20K05175
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
戸部 裕史 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 助教 (40743886)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Cu-Al-Mn合金 / 形状記憶合金 / 集合組織 / マルテンサイト変態 / 時効析出 |
研究実績の概要 |
1~2年目はステップ1としてβ相(bcc)の集合組織強化を検討することとしており、2年目は集合組織の成り立ちを理解するために、圧下率を変化させて圧延を行い、その後の熱処理によりどのような集合組織が形成されるのかを調査した。圧延前の組織として、1年目に得られた熱処理条件を基にα相(fcc)とβ相の二相状態にした板材およびβ相単相状態にした板材を準備した。β単相でもα+β二相でも、β相は圧延の応力により応力誘起マルテンサイト変態を生じることがわかった。マルテンサイト相での変形が生じることで、bcc構造の典型的な加工集合組織方位とは異なる方位が形成される。圧下率を50%から90%まで増加させた場合、α相の体積率が大きい試料ではbcc構造の典型的な加工集合組織方位のひとつである{001}<110>方位の割合が増加する傾向がみられた。これはβ相がより安定な状態で圧延加工が生じているためと考えられる。圧延後に単結晶化熱処理に必要な900℃(β単相温度)で熱処理を施した場合、様々な方位が安定方位として残存し、集合組織の弱い組織となった。このようにマルテンサイト相の変形に起因する結晶粒の方位のばらつきが、単結晶化熱処理後の結晶方位のばらつきにつながっているものと考えられる。圧延後の熱処理の際に、700℃以下のα+β温度域での熱処理により微細なα相を分散させてβ相粒の成長をピン止めした場合、成長する結晶方位に偏りが生じ、ピン止めがない場合に比べて各結晶方位の体積率に偏りを持たせることができた(集合組織の形成)。一方で、900℃(β単相温度)にさらしてピン止めの効果を無くした場合、それまでに形成された方位の偏りは引き継がれず、ピン止めを行わなかった試料と同様に弱い集合組織へと変化した。以上のように、圧延と熱処理でどのような結晶方位を有する結晶粒が形成されるのか、その種類や頻度を明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1~2年目にはステップ1として集合組織の強化を検討することとしていた。加工および熱処理がどのように結晶方位に影響を及ぼすかを明らかにすることができ、また、微細α相のピン止めによりβ相の集合組織を強めることができた。その一方で、一度の圧延と一度の熱処理では、単結晶化熱処理に必要な900℃(β単相温度でピン止めが存在しない状態)で特定方位のみを強める(強い集合組織を形成する)ことができないことが明らかとなったため、複数回の圧延加工と熱処理を加え、方位の偏りをもたせる必要があるとわかった。α相のピン止めを活用して強化した集合組織を有する試料に、追加の加工熱処理を施すことで、より限定的な方位の粒成長が期待できる。以上より、900℃でも強い集合組織を形成可能な方針が得られ、おおむね当初想定通りに進捗がみられているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
3年目(最終年度)は当初予定通り、ステップ2として集合組織の制御とこれに起因する単結晶方位の制御を試みる。2年目までに得られた集合組織強化の加工熱処理方針として、微細α相のピン止めを行ったのちに、追加の圧延加工と熱処理を施す。圧下率や熱処理温度等を変化させることで、各結晶方位の粒成長に及ぼす影響を調査する。2年目においては、集合組織強化の検討に並行して、既報告のある単結晶化熱処理条件により多結晶から単結晶化が可能であることも確認できている。そのため、3年目では、強化した集合組織に対して単結晶熱処理を施した場合の結晶方位を調査する。以上を通して、板材の面内方向に超弾性歪み量の優れる<001>方位周辺の結晶方位を得ることを目指す。
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