3年目(最終年度)は当初予定通り、ステップ2としてβ相(bcc)の集合組織制御とこれに起因する単結晶方位の制御を試みた。集合組織の制御に向けては、2年目までに得られた集合組織強化の加工熱処理方針を基に、圧延加工前に微細α相(fcc)をβ相内に析出させることにより、圧延時に安定したβ相で変形を生じさせることと、その後の熱処理時にβ粒の成長をピン止めさせることを検討した。微細α相の析出には、低温時効によるβ相のベイナイト変態を活用した。微細なベイナイトを析出後により高温でベイナイトをα相に変態させることで、微細な針状α相をβ相内に分散させることができた。この状態で冷間圧延を圧下率30%以上で実施(好ましくは同様の熱処理と冷間圧延を2回以上繰り返し実施)し、β相単相となる温度以下の715℃以下での熱処理でピン止めを行うことにより、圧延方向に<510>近傍の強い集合組織が形成されることがわかった。この<510>方位は超弾性歪み量の優れる結晶方位である。また、この強化された集合組織に起因し、単結晶化熱処理に必要な900℃(β単相温度でピン止めが存在しない状態)においても主要な<510>近傍方位を残存させることができた。この集合組織をもつ試料に対して単結晶化熱処理を施したところ、集合組織強度に対応した方位分散の割合をもつ単結晶が得られた。すなわち、超弾性歪み量の小さい<111>方位から10°以内にある単結晶は生成せず、全体の55%以上において、<510>方位から25°以内、かつ、<111>方位から25°以上の範囲内にある単結晶を得ることができた。本研究で確立した結晶方位制御手法により、優れた特性を有する単結晶板材を安定して供給可能となることが期待できる。このような板材は、熱的駆動アクチュエータ(例えば宇宙機温度制御用ヒートスイッチ等)の性能向上に貢献できる。
|