一般的な銅製錬の電解精製工程では、粗銅(アノード)中の不純物量が増加すると電解中に不溶性物質がアノード表面に蓄積し銅の溶出反応が停止する不動態化が生じる。本研究では、銅電解精製における粗銅を銅と不純物のガルバニック対とみなし、通電中の電気化学計測と同時に試料表面の直接観察を併用して不働態化現象を解明し、さらに不動態化を抑制する方法を見出すことを目的としている。 実験は銅線に各種金属線を巻き付けた銅電極試料(巻線)を硫酸銅または硫酸酸性硫酸銅水溶液に浸漬し、試料上部に実体顕微鏡を設置して通電中の電気化学計測を行うとともに試料表面をその場観察した。本実験法によりアノード溶解反応への不純物の電気化学的な影響を簡便な方法でかつ、視覚的に捉えることが可能である。不純物金属は、カソード金属として金、白金、パラジウム、銀、アノード金属としてスズ、カドミウム、亜鉛を選択した。一部の金属については、銅線にメッキを施した試料を用い、本実験方法との比較を行った。 各金属線の電位測定を行った結果、標準電極電位と比較して金とパラジウムの高低が逆転し、本溶液中でパラジウムは銅を溶解させやすい可能性が考えられた。巻線を用いて電位測定を行った結果、巻線の電位は銅の電位に近づき、その電位の順は巻いている金属線の標準電極電位の順と同じであった。巻線およびメッキ電極のサイクリックボルタンメトリーを行った結果、電極の分極特性や起こる反応は類似していたが、巻線とめっきでは巻線の方が目視できる変化は明確であった。 以上の結果より、本実験方法は簡便で電気化学的な挙動を測定しながらその場観察することが可能であり、さらに電気化学測定結果には表れない電極表面の変化などを明確に観察できることが見出された。今後は各種金属だけでなく合金なども調査し、不動態化に悪影響を及ぼす要因などを見出し、より最適な電解条件を探索する。
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