モリブデン酸ジルコニウム(ZrMo2O8)は,使用済核燃料ガラス固化体中に生成する水溶性の有害相イエローフェイズの1つである.前年度までに,この菱面体晶の室温から極低温に至る磁性を測定した結果,反磁性相,常磁性相を経て,フェリ磁性相に磁気相転移することが分かった.また,極低温でスピンの規則度が増加すると,そのスピン配置はある程度高温側まで凍結されることを見出した.一方,構造解析するため,Spring 8を用いて極低温まで放射光XRDを実施した. R5年度,放射光XRD結果をリートベルト解析した.この菱面体晶において,MoO4四面体とZrO6八面体のクラスタ-群が層状構造を形成している.aおよびb軸はMoO4四面体クラスタ-とZrO6八面体クラスタ-を架橋するOイオンの秤動振動によって負の熱膨張を示すことが分かった.すなわち,低温になるほど秤動振動が減衰し,両クラスタ-間の結合距離が長くなるため,負の熱膨張が発現する.一方,c軸は正の熱膨張を示し,このc軸の効果により,結晶格子全体では正の熱膨張を示すことが明らかとなった. 冷却過程において,結晶構造中に六角形状に配置している非架橋Oイオンが六角形の中心方向に向かって平行移動することが分かった.この平行移動により,Moイオン周辺の電子密度が増加し,すなわち,電子の不対成分が形成され,常磁性を経てフェリ磁性に向かう磁気相転移が発現することが明らかとなった.また,極低温まで冷却して一旦格子が凍結されると,解凍するためには過剰な熱エネルギーを必要とし,その結果,スピン配置の解凍も高温側に移行して特異な磁性の温度履歴現象が発現することが判明した. 飽和溶解度測定によって標準溶解ギブズエネルギーを求め,また,熱力学サイクルに基づき,この菱面体晶の標準生成ギブズエネルギーを導き,固体と水溶液中イオンの熱力学諸量を統合して決定した.
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