研究課題/領域番号 |
20K05187
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
町田 基 千葉大学, 総合安全衛生管理機構, 教授 (30344964)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 水質汚染物質 / 活性炭素 / 吸着 / 陰イオン / 硝酸イオン / リン酸イオン |
研究実績の概要 |
本研究は水質汚染物質,特に水中に溶解している重金属イオンや硝酸・リン酸イオンといったイオン性の汚染物質を選択的・効率的に吸着除去するための吸着剤を開発しようというものである。これまで私共の研究室ではカドミウムや鉛といった陽イオンについては,イオン交換樹脂並みの十分な吸着性能を有する吸着剤を調製することに成功しており,特許も取得済みである。一方,六価クロム・ヒ素イオンや硝酸・リン酸イオンといった陰イオンについては,セラミック系の物質については十分な吸着性能が得られているが,炭素系材料については未だ十分な性能が得られていない。炭素系材料はポリマー(イオン交換樹脂)やセラミック系材料と比べて熱や酸・塩基に対する耐性が優れているため,取り扱い易く再生処理もさまざまな方法(酸・塩基処理や熱湯での加熱処理,etc.)で可能という利点がある。また,廃棄の際も骨格が炭素であるのでそのまま土に埋めたり,可燃物として焼却したりすることもできる。 今年度は炭素系材料に集中して実験的な検討をした。炭素系材料の表面で陰イオンに有効な吸着サイトは,グラファイト表面のCπ電子でプロトン(H+)を受け入れて若干正に帯電する。その外のサイトにはグラファイト表面に組み込まれた酸素・窒素・硫黄などのヘテロ元素がある。中でも含窒素化合物が有効であり,アルキルアミン(イミンも含む,プロトンと結合して正に帯電しやすい)や第4級窒素(常に正に帯電)などが挙げられる。研究初年度の2020年度はポリアクリロニトリルやメラミン樹脂のような窒素含有ポリマーから陰イオン吸着に有効な吸着剤を調製し,酸性領域(溶液pH 3程度)ながら硝酸イオンの吸着量で 1.0 mmol/gを達成した。この吸着量はイオン交換樹脂には及ばないものの,炭素系吸着剤では世界的にみても最も高い吸着量のグループに入るものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度の2020年度は,これまでの実験研究の結果をベースに活性炭あるいは活性炭素繊維に熱CVD法を用いて炭素表面に窒素をドープ(炭素ー窒素の化学結合を形成)し硝酸イオンの吸着量の増大を試み吸着性能のアップを確認した。また,炭素表面の窒素原子が正に帯電した第4級窒素(Quaternary Nitrogen, N-Qと略記,またはGraphitic Nitrogenとも言う)が有効であることから,はじめから材料中に窒素を多く含むポリマーを出発物質として使用した。具体的にはポリアクリロニトリル樹脂(耐炎化処理済みPAN繊維)とメラミン樹脂を採用し,窒素含有量は20~40%以上ある。PAN繊維は塩化亜鉛の他に炭酸ナトリウムにより賦活した後,900℃以上で熱処理することによりN-Qを炭素表面上に増加させ,リン酸および硝酸イオンの吸着量アップに成功した。特に硝酸イオンについては酸性領域(溶液pH 3程度)ながら硝酸イオンで1.0 mmol/g(62 mg-NO3-/g)を達成した。メラミン樹脂については塩化亜鉛により賦活処理(炭素化を進めるとともに炭素内に細孔を発達させて表面積を増大させる処理)を行い,その後,酸化処理をすることによりリン酸イオンを特異的に吸着する吸着剤を見出した。また,河川や湖沼ではリンと窒素がリン酸イオンおよび硝酸イオンとして含まれているが,この吸着剤では硝酸イオンは全く吸着せずリン酸イオンのみを選択的に吸着する。はじめ賦活に用いた亜鉛金属が残留しており,これが酸化され酸化亜鉛(ZnO)を生成し,このZnOがリン酸イオンのみを吸着し硝酸イオンを吸着しない性質があることから亜鉛の効果を疑った。しかし,詳細に検討した結果,亜鉛の寄与は少ないことが推定された。現在,表面状態などをXPS N1sスペクトルなどを測定して選択的吸着サイト(おそらく窒素含有サイト)およびその吸着メカニズムを検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
窒素含有炭素表面の調製とリン酸・硝酸イオンの吸着量のアップには成功したが,現在の問題として概要でも述べたように炭素の表面(主に窒素種)と陰イオンとの相互作用(吸着メカニズム)がはっきりしていないことがあげられる。例えば,硝酸イオンの吸着では,水溶液のpHを酸性から塩基性領域に変化させると,吸着量が酸性~中性領域で一定になる場合と中性域に向かうと減少する場合が観測される。現時点では第4級窒素(N-Q)量やCπサイトの量だけでは説明できていない。吸着メカニズムがある程度明確にならないと,よりよい吸着剤の設計がし難いため,先ずはさまざまな吸着剤を調製してそれらと比較しながら,吸着剤表面の物性も測定しながら,陰イオンと吸着剤表面の相互作用を詳細に探っていく。昨年度(2020度)は初年度ということで,先ず吸着性能を上げることに注力して検討を進めた。次年度は,これまで最適と考えてきた吸着剤の調製法についても賦活剤の使用量,含侵時間,賦活温度,さらには後処理の酸化や高温加熱などの変数を大きく変化させたり,処理の順番を変えたりすることにより,これまで見逃してきた調製条件も探っていく。 炭素系吸着剤では,吸着過程は拡散律速でコントロールされている。このため,細孔構造,特に細孔の大きさが吸着速度に大きく影響を及ぼす。陰イオン吸着に有効なサイトばかりでなく,工業的あるいは実用的観点から重要な吸着サイトに陰イオンを速く到達させるための大細孔径の炭素の調製も試み,吸着量ばかりでなく吸着速度もアップさせるための調製法も開発していく。出発物質についてもフェノール樹脂,PAN繊維,メラミンフォームなど人工的に合成されたポリマーの他に,竹や松かさ(パインコーン,松ぼっくり)などの自然由来で入手しやすい植物(乾燥して長期保管ができる繊維質の植物)からの吸着剤調製なども試していく。
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