本提案では、静電噴霧法を利用した各種装置の最適設計および操作条件の最適化の指針を得ることと帯電液滴蒸発過程の学理の深化を目的とし、同一研究者により①実験・②理論・③分子シミュレーションの3つの方法により得られる知見を相互に活用し、現象の解明に取り組んだ。そして、各方法から得られる情報により、静電噴霧法等により生成する多価帯電液滴の蒸発・分裂過程とそれに伴い発生するイオンやナノ粒子の生成過程や発生したイオンの形態ならびに動的挙動(電気移動度等)について解析した。理論計算やシミュレーションから、実験では得られない微小時間の液滴の挙動を、実験から理論に反映できていない液滴変形の影響等を考慮することで、分子と粒子をつなぐユニバーサル理論の構築を試みた。 最終年度は、本課題採択直後の所属機関の異動により遅れていた実験の部分を中心に検討を実施した。特に、実験および解析に使用できる機器等が大きく制限されたために、新たに試作した静電噴霧装置の設計と塩化ナトリウム水溶液を用いた静電噴霧実験による最適操作条件の検討を中心に行った。具体的には、静電噴霧装置への印加電圧と静電噴霧により生成した帯電ナノ液滴から生じた微粒子の粒子径分布の関係について検討した。この結果、印加電圧の増加とともに生成する粒子個数濃度は極端に減少し、粒子径分布は大粒子径側にシフトしていく様子が観測された。つまり、印加電圧が比較的小さい場合には、帯電数が小さくナノサイズのうちでもより微小な液滴が多数生成していたのに対し、印加電圧が大きくなるにつれて液滴サイズおよび帯電数の増加とともに粒子個数濃度の減少が促進されていた。一方、理論的にも微小液滴の方が蒸発速度はより促進されていると予想されることから、1次生成後の分裂を考慮することで生成液滴からの粒子の発生現象を十分に説明可能と考えられる。
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