研究課題/領域番号 |
20K05191
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
向井 康人 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (30303663)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ナノファイバー膜 / エマルション / コアレッサー / 微小油滴 / 合一分離 / ポリアクリロニトリル |
研究実績の概要 |
前年度,親油性ナノファイバー膜が10μm以下の微小油滴のコアレッサー材として有用であることを証明した.しかし,実験で得られた微小油滴の分離度は最大で約90%であり,十分に高いとは言えない結果であった.そこで,ナノファイバー膜の原料となる高分子の種類について検討することとした.前年度使用したポリプロピレン(PP)に加え,油滴の接触角測定で親油性が高いと判断されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリビニルアルコール(PVA),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリアクリロニトリル(PAN)を原料に用いてそれぞれナノファイバー膜を作製した.各ナノファイバー膜を用いてマイクロエマルションの合一分離実験を行った結果,PVDF,PVA,PAN製の膜を用いた実験で99%以上の極めて高い分離度を達成することができた.さらに,圧損の結果を比較したところ,圧損の大きさはPAN<PVA<PVDFの順であった.以上より,PANナノファイバー膜が最も高分離度と低圧損の両立を果たし,コアレッサー材として最適であることを明らかにした. 通液面積3.4cm2のPANナノファイバー膜に対し,定量送液ポンプにより流量を5~80mL/minの範囲で種々に変化させて,マイクロエマルションを透過させた.流量とともに分離度は増加し,30mL/min以上になると分離度は99.9%に至ることがわかった.流量の増加によって油滴の衝突速度が増加し,油膜への合一が促進されたためであると考えられる.圧損にも流量依存性がみられたが,20mL/min以上における圧損の増加は緩やかであった.流量の増加により油膜の剥離が促進され,生じた空隙が圧損の過剰な増加を抑制したと考えられる.また,5時間以上通液を継続しても,高分離度・低圧損の状態は維持され,長時間の連続操作においても安定した合一分離を達成できることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究により,ほぼ100%の高分離度かつ約25kPaのごく低圧損での定常操作を実現し,この点については十分に目標を達成できたといえる.しかし,この結果は界面活性剤を添加していないエマルションに対する結果であり,界面活性剤を添加して分散安定度を高めたエマルションに対しては分離度が97.5%に低下した.また,分離後の油相には白濁した塊が一部含まれており,合一ではなく凝集による油滴の粗大化が部分的に見られるようになった.界面活性剤の有無によらずほぼ100%の高分離度を達成することを目指していたので,この点については進展が遅れていると言わざるを得ない. PP,PTFE,PVA,PVDF,PANの5種類のナノファイバー材料を比較し,合一分離性能の優劣を明らかにしたが,実際には材料ごとに繊維径や繊維層構造が異なるので,結果の違いは必ずしも材料の違いによるものとは限らない.本年度の研究でPANナノファイバー膜が最適との結論を得たが,PANの材料特性のみによるものか膜の構造も寄与しているかについては十分な解明に至らず,次年度に検討を深める必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
界面活性剤を添加して分散安定度を高めたエマルションに対しても99%以上の分離度を達成するよう,ナノファイバー膜の繊維層構造と合一分離プロセスの操作条件の見直しを行う.多岐にわたる実験データを集約・総括し,目標値を達成するための最適なコアレッサー条件を探索・究明し,本法の指針として提出する. これまではラボスケールのコアレッサーユニットで実験データを集約してきたが,実用化を目指すためにはユニットのスケールアップによる検討が必要である.フィルターホルダー,定量送液ポンプ,圧力計などのパーツをスペックアップして新たに連続式ナノファイバーコアレッサーユニットを導入し,高精度かつ高効率の合一分離システムを確立したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
ラボスケールではある程度マイクロエマルションの高精度かつ高効率の合一分離が実現できたので,さらに実用化を見据えて,連続式ナノファイバーコアレッサーユニットのスケールアップが必要であるとの結論に至った.そのためにはユニットごと更新する必要があり,その購入に充てるためのまとまった資金を次年度に繰り越すこととした.
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