研究課題/領域番号 |
20K05199
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
二井 晋 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (90262865)
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研究分担者 |
五島 崇 鹿児島大学, 理工学域工学系, 助教 (90709560)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ultrasound / particle / separation / submicron |
研究実績の概要 |
本研究は、申請者により発見された、サブミクロン粒子懸濁液の超音波噴流内において、超音波で発生された霧よりもはるかに高い粒子分離度と濃縮度が得られた事実に基づき、超音波照射下での液中気泡群による粒子サイズ認識メカニズムを解明して分離粒子径の制御手法を開発することと、濃縮に適した噴流からの標的粒子濃縮物の回収法を確立し、超音波による微粒子分離技術の学術基盤を構築することを目的とする。 令和2年度には実験装置として、1~3 MHzの超音波振動子を備え、100 mLの粒子分散液に超音波を照射して噴流を発生させる槽の設計と試作を行った。試料には単分散シリカを選択し、粒子径が100 nmと300 nmを所定の割合で混合して、空気飽和水に分散させた懸濁液試料を調製した。この粒子懸濁液に所定の周波数および投入電力で超音波を照射して生じた噴流から採取したサンプルを分析し、100 nm粒子の分離度と濃縮比を調査した。 噴流中には、報告者によるこれまでの研究で報告してきた霧の場合と同様に、100 nm粒子濃度が300 nm 粒子に比べて大きくなった。300 nmに対する100 nm分離度は5.0と、霧の場合と近かったものの、濃縮率は9.0となり噴流では霧の場合の1.9と比較して大幅な濃縮が見られた。超音波振動子への投入電力を変化させて100 nm粒子の分離度と濃縮率を調べたところ、分離度と濃縮率の極大をとる投入電力があることがわかった。 これらの結果は、超音波照射により100 nm粒子が局在化していること、噴流内に局在化粒子が移送されていることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進捗状況は当初予定したよりもやや遅れている。コロナウイルスの影響を受けて装置部品の製作が遅れたことから、装置の完成に時間を要した。得られた成果として、粒子懸濁液中への超音波照射により生成した噴流中で100 nm粒子の著しい濃縮が確認されたのは顕著である。投入電力を変化させた場合に、100 nmの分離度と濃縮率に極大値が見られたことは、キャビテーション気泡量との相関が推測され、非常に興味深い結果である。先行研究(Y. Mizushima et al., Chem. Eng. Sci., 93(2013)395-400)でも、500kHzまでの超音波照射下での液中の300マイクロメートル粒子において、気泡が付着した粒子の運動により、粒子が局在化する現象が報告され、ナノメートル域の粒子挙動でも気泡との相互作用の可能性が考えられる。キャビテーション気泡の性質と量を決めるのは、液中の溶存気体であり、気体の種類と量を変化させて実験することで、気泡の影響をより明確に理解できる。したがって、令和3年度には溶存気体としてアルゴン、窒素を用い、溶解量も変化させて検討を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
進捗にやや遅れが見られることから、研究協力者の大学院学生を増員して計画の遂行を加速する。当初計画していた、懸濁液への溶存ガス種と溶解量の変化による分離への影響の調査を速やかに行う。さらに、超音波周波数を変化させ、分離と濃縮に最適な周波数を探索する。水中のキャビテーション気泡生成挙動について、超音波照射による発生の状態と、粒子添加による気泡数の変化を計測して把握を進める。これらの知見に基づいて、気泡と粒子間での相互作用に関する仮説を立てて、これを立証するための検討を行う。このためには噴流内部および周囲での粒子懸濁液の流動挙動を把握することも重要であるため、レーザーシートと高速度ビデオカメラを用いた観察システムを作製して、種々の条件下での観察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスによる緊急事態宣言により、旅費の執行ができなかったこと、装置部品の作製に遅れが生じて、当初の計画通りに執行ができなかった。そのため、令和3年度には研究を加速して行い、予定通りの執行を目指す。
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