研究課題/領域番号 |
20K05200
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
佐藤根 大士 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (00583709)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 可逆的分散状態制御 / 刺激応答性スラリー / セラミックス / シート成形 / テープ成形 / 化学工学 / 粉粒体操作 / コロイド科学 |
研究実績の概要 |
令和4年度は、刺激応答性スラリーの調製条件について、より幅広い物質への対応を検討した上で、最適条件で調製した刺激応答性スラリーを用いてシート成形に取り組む予定であった。しかしながら新型コロナウイルスの感染拡大の影響が色濃く残り、特に吸着量や吸着形態の分析が当初の想定通りには進まず、最も重要な水中で負に帯電する粒子への対応のみの検討に留まった。 昨年度までの成果で、高分子電解質分散剤であるポリカルボン酸アンモニウムと軟凝集化添加剤であるメチレンジアミンのみの組み合わせで刺激応答性スラリーの調製に成功しており、水中で表面が正帯電する粒子はほぼ対応可能となっていた。一方で、水中で負に帯電する粒子も多数存在するため、技術の汎用性確保のためこれらの粒子への対応が必要であった。負に帯電している表面に強く吸着する高分子分散剤の代表は、カチオン系高分子電解質であるポリエチレンイミンが挙げられるため、昨年度までに使用していたアニオン系のものに近い分子量のものを採用した。まずは回分重力沈降試験、粘度測定および全有機炭素量測定法により分散剤の最適添加量調査を行ったが、単に試料粉体、イオン交換水、高分子分散剤を混合しただけでは良分散状態となる添加条件を得ることができず、分散剤も大半が吸着しなかった。粒子が十分に負帯電していることは確認されていることから、ポリエチレンイミンが水中で十分に帯電していないことが原因と推測されたため、酸を添加して再度最適添加量を調査し、アニオン系高分子分散剤を適量添加した場合と同様の最適条件を明らかにした。次に、軟凝集化添加剤としてマロン酸を添加したところ、事前に飽和水溶液を調製しておくことで刺激応答性スラリーの調製に成功した。これらの結果より、水中で負に帯電する粒子に対しても刺激応答性スラリーの調製が可能となり、フレキシブルシート成形に利用できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は当初、より幅広い物質に対応した刺激応答性スラリーの調製条件の検討および、調製した刺激応答性スラリーを用いたバインダーレスでのフレキシブルシート成形条件の最適化の2点について取り組みを想定していた。しかしながら、新型コロナウイルスの影響により両者を実施することは困難であることが推測された。昨年度までに刺激応答性スラリーを用いることでフレキシブルシートを成形できる可能性は示唆されており、幅広い対応のためには、刺激応答性スラリーの汎用的な調製条件確立が重要となる。このため、後者については研究期間延長を申請して次年度以降に対応するものとし、今年度は前者のみに限定して取り組んだ。 本年度行った研究により、水中で表面が負に帯電する粒子を用いて刺激応答性スラリーの調製に成功した。使用した粉体は昨年度と同じチタン酸バリウムであるが、pHを調製することで負に強く帯電する条件とすることでモデル粒子とした。媒液にはイオン交換水を用いた。高分子分散剤にはポリエチレンイミンを用いた。当初、昨年までと同様に単にサンプルを混合することで良分散スラリーを調製し、その後添加剤を用いて刺激応答性付与を想定していたが、かなりの量の分散剤を添加しても良分散スラリーを得ることができないという問題が発生した。この問題について慎重に調査を行ったところ、ポリエチレンイミンの解離が不十分で正帯電できていない部分が大半であることが原因と突き止め、酸添加により解決できることを見いだした。さらに、この良分散スラリーにマロン酸を添加することで、刺激応答性を付与できることが確認された。 以上の結果より、水中で負帯電する粒子でも刺激応答性スラリーを調製可能なことが確認できた。当初予定していたシート成形は未達成であるものの、スラリー調製条件は幅広いサンプルで最適化可能となっており、次年度には最終目標を達成できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、スラリーに刺激応答性を付与する添加剤について、より幅広い物質への対応を検討する。現状、粒子が水中で正に帯電している場合には高分子電解質分散剤としてポリカルボン酸アンモニウムを刺激応答性付与添加剤としてメチレンジアミンの組み合わせを、粒子が水中で負に帯電している場合にはポリエチレンイミンとマロン酸の組み合わせで刺激応答性スラリーを調製可能となっている。しかしながら、研究の最終目標である幅広いサンプルに対してフレキシブルシートのバインダレス成形を可能とするためには、幅広い刺激応答性付与添加剤との関係性を明らかにしておく必要が不可欠となる。さらにはベースとなる良分散スラリー調製条件についても、粒子サイズによっては分散剤の最適分子量も異なるためパラメータとなりうる。刺激応答性付与添加剤は水溶性かつ低環境刺激物質、できるだけ自然由来の安全な成分のものを採用する。添加剤の有用性確認のためには、シートの成形性および得られたシートのフレキシビリティの確認が重要となる。成形方法はこれまでと同様にドクターブレード法を採用する。シート成形については、可否および成形されたシートの密度、強度、可塑性、乾燥過程の変化等について幅広く評価を行い、本研究の有効性を実証する。 ただし、シート成形は過去の文献等でも報告がある通り、スラリーの調製条件により最適条件が異なる可能性がある。また、使用するベースフィルムの表面性状に左右される可能性も高い。シート成形の条件についてはスラリーごとに最適条件が存在する可能性も視野に条件設定を心がける。ベースフィルムについては表面性状が異なるフィルムへの変更を検討するだけでなく、必要に応じてフィルムの表面改質で対応する。検討すべきパラメータは多岐にわたるため、上記研究と並行して効率的な実験手法の確立および自動観察・測定手法についても構築および導入を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該研究費が生じた状況として、新型コロナウイルスの影響が色濃く残り十分な研究実施環境が確保できず、また最適条件の調査時に想定外の時間を要したこともあり、当初想定していた量の実験が実施できなかったことが挙げられる。加えて、研究協力者の学生の時間を十分に確保できなかったこと、情報収集予定先への出張ができなかったこと、多くの学会がオンラインのみの開催または中止となったことなどから旅費が発生しなかったことが挙げられる。 当該研究費については、より幅広い物質を用いてスラリーに刺激応答性を付与する実験およびシート成形条件の最適化関する検討に使用する他、パラメータが多岐にわたる実験に対して、自動観察・測定を可能とする測定システム構築および導入などの実験の効率化に使用する予定である。スラリーに刺激応答性を付与する実験については、特に大きな影響が出ると予想される分子量の異なる高分子電解質分散剤および種類の異なる刺激応答性付与添加剤等の様々な試料や薬品の購入に使用する予定である。 また、期間延長を申請することになったものの研究自体は間違いなく進展はしており、最終目標につながる結果も多く得られている。このため、得られた成果を積極的に発信すべく、学会や展示会だけでなく、産学官主催のシーズ発表や各種セミナー等、国内外の様々な発信の場に参加するためにも使用する予定である。
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