研究課題/領域番号 |
20K05210
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
工藤 真二 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (70588889)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | バイオマス / セルロース / 熱分解 / 反応器 / 液状触媒 |
研究実績の概要 |
本研究では、バイオマス由来化学品製造におけるプラットフォーム化合物として期待されるレボグルコセノン(LGO)を効率よく製造する手法を開発することを目的とする。具体的には、LGOを迅速かつ消耗性の試薬の投入なしに製造する新たなプロセスのコア技術として触媒活性をもつ液状触媒を用いた触媒濡壁反応器を開発する。液状触媒の特徴を活かしたこの反応器はバイオマスの熱分解揮発性生成物を気相改質してLGOを製造し、同反応におけるコークの析出・触媒劣化という通常の充填層触媒では避け難い課題を克服するものである。研究初年度に設定した主な課題は、触媒濡壁反応器の設計に必要な反応操作に関する基礎的なデータベースを構築する事であり、反応の主原料となるセルロースの熱分解揮発性生成物を各種条件下で液状触媒固定層に供給する試験によりこれを検討した。実施者らの既報研究から推察された通り、液状触媒としてスルホン酸をアニオンにもつイオン液体(IL)を採用した場合、揮発性生成物中のレボグルコサン(LGA)をはじめとする無水糖がLGOに改質されることが確認され、ミリ秒あるいは秒単位の迅速な反応であることが明らかとなった。ただし、温度次第でコーク析出や触媒の揮発あるいは分解傾向は顕著であり、触媒濡壁反応器の適用によりこれをいかに克服できるかが開発のポイントとなる。一方、ILは高価であり、LGOを安価に提供するためにはプロセスにおけるロスを限りなくゼロに近づける必要がある。液状触媒の代替を模索した結果、ILよりもはるかに安価なある種の深共晶溶媒がイオン液体と同等、あるいはより高い触媒活性を有することを見出した。液状触媒をセルロースに担持して熱分解する手法で20種類以上の深共晶溶媒をスクリーニングし、得られたLGO最大収率は32.3 wt%であった。ただし、溶媒の反応後回収率は高々30%程度であり改善の必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究開始当初の計画では、本年度の研究予定は触媒濡壁反応器の設計に必要な反応操作に関する基礎的なデータベース構築と、次年度研究の反応試験準備が主であった。詳細な課題としては、無水糖がLGOに改質される際の反応速度や物質移動速度等を定量化することを掲げていたが、原料供給の不安定性に起因して精密な分析が困難であり定量化には至らなかった。しかしながら、反応は極めて迅速であることが確認されたため触媒濡壁法の適用に支障はないものと判断され、また反応速度のオーダーを把握できたことから次年度の触媒濡壁反応試験に予定通り進む準備が整った。反応器の構想、設計も同年中に完了済みである。一方、このように目標を達成しつつも、加えて、液状触媒として新たに深共晶溶媒がILと同様の触媒性能を示しうることも明らかにした。これまでに用いていたILは高価であり、触媒濡壁反応器の適用をもってしても実用に疑義があったが、はるかに安価な深共晶溶媒を触媒として使用できる可能性を示したことは意義がある。得られたLGO収率は、特殊な反応操作法の例を除き、既報の中でもトップクラスに高い。ただし、高いLGO収率につながる触媒活性を示した深共晶溶媒は熱的安定性がILにおとるため、水素供与体と受容体の種類および組合せをさらに追及して成績を向上させる必要がある。つまり、積極的な意味で研究に新たな方向性が生じた。本成果に関する論文および学会発表の準備を進めており、さらには研究のターゲットであるLGOの製造に関する総説論文を投稿したことなどを踏まえ、初年度の研究としては当初の計画以上に進んでいる状況であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従うと、次年度は、LGAを原料とする触媒濡壁反応器試験を行い、基礎データを得たのち、結果に基づき設定した条件を用いてセルロース熱分解揮発性生物を原料とする触媒濡壁反応器試験を行う。LGAを原料とする基礎試験は本年度にも実施したが、LGAの揮発性の低さに起因して触媒への供給が困難であった。揮発した一部のみを供給する、あるいは反応器を減圧する、高温化するなどの対策により対処は可能と考えられるが、本年度の作業で苦心したことを踏まえてLGAを原料とする試験は割愛し、セルロース熱分解揮発性生成物を原料とする試験から開始することとした。LGOの主原料となるLGAがセルロースの熱分解によりどのように、どの程度生じるかは昨年度の試験結果およびこれまでの経験上明らかであり、目標達成には全く支障がないことから、これは研究の滞りない進行に寄与する判断であるものと考える。一方、深共晶溶媒等のIL以外の液状触媒に関する検討を新たに設定した。これは、実用化を見据えたLGO製造技術の開発に有用な方策であると考える。次年度は、これら2点の研究を集中的に行い、いずれも年度内に完了することを目標とする。得られた成果を踏まえ、最終年度には、研究計画通り触媒濡壁反応器の他の反応系への応用を検討する。
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