研究課題
金属ナノ粒子の触媒活性はその構造、サイズ、電荷など様々因子に依存するため、触媒活性の主要な影響因子を解明するのは容易ではない。特に、何個原子数を含めてる金属クラスターは柔らかく、多様な構造を有するため、触媒活性の理論解析するには、実在系に近い理論計算モデルを用いて、大量の計算を網羅的に実行する必要がある。しかし、構造最適化のコストが膨大なために理論計算モデルは小さくならざるを得ず、実験系との間には大きなギャップが存在することが課題である。本研究では多数の金属クラスターの構造を考慮し、すべての活性点を調べ、機械学習を行い、活性サイトを明らかにすることを目指し研究を進めている。本年度では、金属クラスターの活性サイトを特定するプログラムを作成し、金クラスターにおける小分子の分解反応に応用した。金属クラスターの多様な分子構造について、得られた計算データを収集している。また、得られた多くの金属クラスター構造に基づき、反応性と金属クラスター構造の関係性について解析を進めた。本年度は、金属クラスターの構造に加えて、表面担持した金属クラスターの触媒活性の構造依存性へも研究を展開した。研究の中で、水素発生反応に対して数原子の金属クラスターにおける、反応機構を適切に解明するためには、異性体構造、多様な活性点を系統的に考慮することが重要であることを示した。また、実験と共同研究を通じて、金属酸化物における、CH4解離反応の触媒活性の金属酸化物クラスターのサイズ依存性も調べた。その結果より、金属酸化物クラスターのedgeである酸素はCH4の解離に重要な役割を果たすことを示した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は金クラスターにおける小分子の解離反応に触媒活性を解明できるところまで到達しており、計画通り進行しているといえる。多数の金クラスターの安定構造より、分子解離遷移状態を網羅的に探索し、機械学習を行い、構造活性相関を出した。また、実験研究に基づき広く研究されている固体表面に担持した金クラスターについても研究を展開した。表面に担持された金属クラスターは、金属クラスターそのものの構造変化に加えて、表面との相互作用により多数の構造が存在する。従来の理論計算での研究は、想定される金属クラスター構造の中で、最も安定な構造のみを活性種と考えて計算するものがほとんどであった。しかし、実際には、最も安定な金属クラスター構造のみが反応に寄与するわけではなく、多数の金属クラスター構造や複数の活性サイトを考慮した理論計算が求められていた。そこで、本研究では、h-BNに担持した多数の金属クラスターの構造変化を考慮し、多数の活性点を調べることで、水素発生反応に対して金属クラスター構造が与える影響を明らかにした。また、この研究を通じて、表面に担持した金属クラスターを用いる反応において、機構を適切に理解するためには、異性体構造、多様な活性点を系統的に考慮することが重要であることを示した。本研究成果は、米国化学会のJ. Phys. Chem. Cに第一著者として発表している。
これまでは特定なサイズの金クラスターの触媒活性サイトを解析したが、これから研究は以下の手順で進む計画である。(1) これまで得られた構造活性相関を基づいて、違うサイズの金クラスターに適用し、得られた構造活性相関の精度を検証する。(2)作成した活性サイトを特定するプログラムを実在の金属ナノ粒子に応用し、実在系とモデル系の直接的比較を実現する。(3)作成した活性サイトを特定するプログラムを様々な金属種に応用し、データベースを拡張する。
新型コロナウイルス感染症の影響により、学会旅費や研究の打ち合わせの旅費を使用しなかったため次年度使用額が生じた。オンライン学会への参加、及びオンライン会議を通じて、研究成果の発表や研究議論ができており、本研究課題の遂行には支障がなかった。使用計画本研究の研究成果発表のための国際会議への参加旅費に使用する計画である。
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J. Phys. Chem. C
巻: 125 ページ: 1334,1344
10.1021/acs.jpcc.0c08826
Commun. Chem.
巻: 3 ページ: 129
10.1038/s42004-020-00375-0