研究課題/領域番号 |
20K05219
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
楊 國輝 富山大学, 学術研究部工学系, 准教授 (60709707)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 二酸化炭素 / 水素化 / カルボニル化 / エタノール |
研究実績の概要 |
先行研究により、二酸化炭素を原料として、合成ガス(H2+CO)と酢酸メチル(MA)を経由し、非石油基高純度エタノールを合成できる有望な実用化ルートを実現した。しかし、このタンデム合成ルートの鍵であるジメチルエーテル(DME)のカルボニル化反応段階は、ゼオライト触媒の低い活性と安定性の制限を受けている。今年度の研究には、高価かつ複雑なテンプレートを使用せずに、自己組織化ナノモルデナイト(nano-MOR)ゼオライトを構築するため、容易な阻害剤補助合成ストラテジーを開拓した。特定的な阻害剤を用いて結晶成長方向を選択的に制御することにより、70nmの結晶直径しかないナノフィラメントMORゼオライトを成功裏に合成した。自己組織化ナノMOR触媒は、DMEカルボニル化反応において非常に優れた触媒性能を示した。空時収率(STY)について、従来の楕円形MOR(ES-MOR)[1368 mmol/(kg・h)]と比較すると、ナノフィラメントMOR(NF-MOR)はより高い値[3780 mmol/(kg・h)]に達成した。MOR触媒と自己還元Cu-ZnO/SiO2(CZ/SiO2)触媒を組み合わせ、デュアルベッド触媒システムを構築し、エタノールの一段階合成を実現した。新たなNF-MOR&CZ/SiO2の組み合わせにより、従来の方法と比べて約4倍の高いSTY[1800 mmol/(kg・h) vs. 476 mmol/(kg・h)]が得られた。本研究で開発された自己組織化ナノMORゼオライト合成ストラテジーは、C1炭素小分子(CO、CO2)から高付加価値化学品への触媒プロセスの実用化に向け、高性能ゼオライトの合成方法を開拓した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究において、先行研究で開拓された二酸化炭素を原料とする高純度エタノールの合成ルートにおける課題を克服し、目標を大きく上回る成果を得ることができた。特に、タンデム合成ルートの中核であるDMEのカルボニル化反応におけるゼオライト触媒の活性と安定性の向上に焦点を当てた。研究の一環として、高価かつ複雑なテンプレートを使用せずに自己組織化ナノモルデナイト(nano-MOR)ゼオライトを構築するための阻害剤補助合成ストラテジーを開発した。この手法により、結晶成長方向を選択的に制御し、直径わずか70nmのナノフィラメントMORゼオライトを成功裏に合成した。この自己組織化ナノMOR触媒は、DMEカルボニル化反応において非常に優れた触媒性能を示した。さらに、新たなNF-MOR&CZ/SiO2の組み合わせにより、従来の組み合わせと比較して約4倍の高いエタノールの空時収率(STY)が得られた。本研究により、高性能ゼオライトの合成手法において大きな進歩を達成した。今後は、これらの成果を応用してエタノール合成の実用化に向けた更なる研究や産業への展開を目指していくとなる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は予定を大きく上回る成果を達成した。今後は、さらなる実用化に向けて以下の推進方策を考えている。 ① ゼオライト触媒のさらなる最適化: DMEのカルボニル化反応におけるゼオライト触媒の活性と安定性をさらに向上させるため、材料設計や合成条件の最適化を行う。触媒の物理的・化学的特性を精査し、より効率的な反応条件の確立を目指す。 ② エタノール合成プロセスの実用化に向けた取り組み: CO2を原料とするエタノールの合成プロセスをスケールアップし、工業的な実用化に向けた研究を進める。経済性や環境負荷などの実用化における課題を評価し、最適なプロセス条件を探求する。 ③ エタノール以外の高付加価値化学品への応用: 研究で開発した触媒や合成手法を、エタノール以外の高付加価値化学品の合成へ応用する。新たな触媒材料や反応プロセスの開発を行い、持続可能な化学工業の推進に寄与する。 ④ 産業との連携と技術移転: 研究成果を産業界との連携を通じて実用化につなげるため、産業パートナーシップの構築を重視する。産業界のニーズに応えるための技術移転や共同研究の促進を行い、研究成果の実用化と市場への展開を加速させる。 これらの取り組みにより、より持続可能な化学合成プロセスの実現や高付加価値化学品の開発に貢献する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、補助事業の目的をより精緻に達成するための研究実施である。具体的には、以下の研究活動を行う予定である。 ① 追加実験の実施: 前の実験結果を確認し、さらなる詳細なデータや洞察を得るために追加実験を行う。これにより、研究結果の信頼性と先端性を高め、より確かな結論を導き出すことが目的である。 ② 学会参加と論文投稿: 研究成果や知見を広く共有し、他の研究者との交流を図るために学会に参加する。発表やポスターセッションを通じて研究の進展や新たな発見を報告し、他の専門家からのフィードバックを受けることで研究の品質向上を図る。それに、研究成果を学術誌に投稿し、他の研究者や学術コミュニティと共有する。論文掲載により、研究成果の可視性を高め、他の研究者との情報交換や共同研究の機会を広げることが狙う。 これらの活動により、研究の品質向上や知識の共有を図り、補助事業の目的をより精緻に達成するための研究を推進する。翌年度分の請求に関しては、これらの活動に必要な経費を適切に計画し、助成金を活用して実施していく予定である。
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